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Re: Veronica*参照700突破嬉しくて昇天しそう ( No.94 )
日時: 2011/01/10 13:06
名前: 朔 ◆sZ.PMZVBhw (ID: 7Qg9ad9R)
参照: 休 み が 明 け た 。

 空を一隻の船が横断していた。黄金の船体が空の蒼を横切る。雲一つない晴天に黄金きんが太陽の光を反射して輝いていた。


 その船の中に広がる広くきらびやかな部屋。

 部屋の中央には大きなローテーブルが有り、それを中心にして線対象の様に紅いソファが置かれている。

窓側に近いソファにはフリッグら四人が座り、反対には眼鏡をかけたアゲート種の男が唇を斜めにあげてにやにやと笑みを浮かべながら座っていた。


「神器スキーズブラズニルで迎えにきた甲斐があったと思ったけれど、全くそんなことに感謝してないね」
「———当たり前だろ」

じっとフリッグを見つめて男はにこにこ笑いながら言ったが、それを容赦無く切り捨てるかのようにフリッグは言い切った。

廃墟と化したマックールでただ立っていることしか出来なかった彼らの前に現れたこのアゲート種は、有無を言わさずに無理矢理船にフリッグ達を押し込んだのだ。


「神器の一つ、天艇スキーズブラズニル。
ポケットに入るくらいの小さな布が一瞬にしてこのような巨大な船に変わる———。
かつてジェイド種の人間達が移動する際に使用したとされる、移動用の神器だ。

そんなものまで使って迎えに現れたのに君らは感謝の言葉もないのかい」

フーッと深く息を吐いた男は頭をぐったりと垂らす。その男を睨みながらレイスが冷静に訊ねるように言い放つ。

「名前も言わず、ただただ俺たちを連れ去った奴に何を言えば良いんだ。
お前が何だか分からないが、これは拉致になるんじゃないのか?」

饒舌なレイスの言葉にメリッサが強く頷く。
「眼鏡、お前何様だよ」

メリッサはレイスに続いて豪語した。が、男は至って冷静である。

「まあまあ、落ち着きたまえ。君のことは既知だよ」
眼鏡をくいとあげた男はまるで資料を読んでいるかの様に言葉を紡ぎ始めた。男が紡ぐ、言葉の糸車がからからと回る。

「メリッサ=ラヴァードゥーレ、アンバー種。三月三日生まれの十七歳。血液型はO型。

出身地はアースガルド王国で十年前に強制収容所へ家族と共に収容されるが、家族と脱走。逃走中に捕まりかかったところを家族に一人だけ逃がされ、その後帝国へ密入国。
逃走時に偶然落ちた遺跡で神器、運命聖杖ノルネンを入手。

性格は至って自分勝手。幼い頃に味わった貧困生活からか、非常に物質欲・金銭欲が強く、何度となく盗難をしている。前科十五件。ノルネンを使って毎回逃走しているため実際の犯罪数はそれ以上だと———」
「だあああっ———止め、す、スト——————ォッップ!!!」
身を乗り出して両手を大きく振りながら淡々と言葉を発する男を止めようとした。その行為を境に男の口がピタリと止まる。

 男の顔を睨み付けながらメリッサは低く唸る。
「ストーカーか、お前は」
にやにやしながら男は首を横に振って否定する。

「ただ好奇心旺盛で調べすぎてしまうだけだよ。
君らのことを私はよく知っている。だが君らは私のことを知らないだろうね。それではフェアじゃない———」

 男はじっと四人を見つめた。仕方なくフリッグらは目を合わせた。軽く見えながら実は相当思慮深いと思われる男の二つの瑪瑙は赤褐色から光を放っていた。

男の口がゆっくりと動く。


「私はフレイ=ヴァン=ヴァナヘイム。
帝国エターナルの、評議員だ」



<Oz.7:Engulf-風にくしけずり雨にかみあらう->



「フレイ……ヴァ…………?」
「評議員———?」
目を点にしたリュミエールとメリッサは顔を合わせた。その隣でレイスはつらつらと言葉を並べる。

「帝国エターナルは政治を行う二種類の存在がある。
一つは国を束ねる皇帝。もう一つは評議員と呼ばれる存在だ。評議員がまず評議したものを皇帝が判断を下すようになっている。

このフレイ=ヴァン=ヴァナヘイムという男は面に外交を担当としている奴だ。———まさかこんな変人とは思っても無かった、が」

レイスの言葉にフレイと名乗ったアゲート種は「ご名答、よく知ってる!」と小さく叫んだ。

 だが不服そうなフリッグは相変わらずフレイをきつい表情で見つめている。確かにまだ自分達を連れ去った理由が解明されていない。

「———で、そのお偉いさんがどうした訳?」
「フリッグ君、君の義兄がスノウィンに行くそうでね。君も連れていくんだと。だから迎えに来たわけだよ」
「たったそれだけ?」

疑いに満ちた翡翠の目を見て流石に降参したフレイは仕方なさそうな表情をした。

「君たちに私から用事があるのさ。詳しくは首都ニーチェに帰ってから話そうか」

これ以上の詮索はしても答えないだろうと思い、フリッグは訊くのを止めた。


 座っているリュミエールがメリッサの袖を引っ張った。

「おねえちゃん……、リュミたちどうなるの?」

その問いかけに答えず、メリッサは静かに彼女の絹の様な白い髪を撫でた。

——— 一人残された苦しみは、よく知っている。

だから、撫でることしか出来なかった。

* * *

 金の船スキーズブラズニルはニーチェ郊外にある、危険区域のチェヴラシカに降り立った。以前この場でウェロニカの召喚した怪物———バジリスクとり合ったことをフリッグは思い出す。まだ遠くの方に焼け焦げた跡が見えた。

 船から全員が降りたのを確認すると、フレイはそっと船体に触れた。瞬く間に船は折り畳まれて行き、小さくなる。最終的に折り畳まれたハンカチくらいのサイズになった。それをフレイは胸ポケットにしまう。その様子を茫然とフリッグ達は見ていた。

「さて、ここからは徒歩で行こうか」

流石に街中を船で移動する訳にはいかない。フレイは四人を促した。仕方なく付いて行く。



「———フレイ、さん」
「何だい?」

背後から声をかけたフリッグの方をフレイは振り向いた。少年はリュックサックを握りしめ、不安げな眼差しを向けている。

「ウェス———ウェスウィウス・フェーリア・アリアスクロスの知り合いだよな、アンタ」
「双璧とは二人共知り合いさ。お互い事情があってね」

眼鏡をくいとあげたフレイは微笑む。だがフリッグは相変わらずの仏頂面だった。



 フリッグとフレイの後につく三人の人影。

 右にメリッサ、左にレイス。二人に手を引かれるリュミエールの様子はまるで二人の子のようである。

「———むかーし、昔。あるところに竹から生まれた、かぐや姫という美しい女性が居りましたぁ」
昔話を始めるメリッサ。彼女の言葉を真摯に聴くリュミエール。

「かぐや姫は、吉備団子きびだんごで犬、猿、雉、河童、豚を買収して、
三蔵法師を倒しに、天竺へ———」
「いやそれ混ざってる」

メリッサの昔話に冷静に突っ込みをいれたレイスは呆れ顔になった。はぁ、と深く息を吐く。

「リュミ知ってるよ!猿は孫悟空で、河童は沙悟浄、豚は猪八戒なんだよね!
それで、ピーチマン達と一緒に三蔵法師を倒して偉いお経を持ち帰るの!
メルおねえちゃんが前話してくれたよ」

———子供は吸収が早くて困る。
無邪気に話すリュミエールを見て、レイスは頭を抱えた。なんだか急に頭痛が……。

「んでんでっ、かぐや姫は三蔵法師を倒しておじーさんとおばーさんのとこにお経を持って帰って、打出の小槌で大きくなるんだよね。三蔵が」
「いや、ならない。だから混ざってるって……」

こんなごちゃ混ぜ話を刷り込んだのは間違いなくあの女———メリッサだ。軽い恨みを覚えながら童女の手を握る。———少し元気になったみたいでほっとした。だが恐らくそれは心配をかけないように虚勢を張っているのだろう……。


 ニーチェの街中に入り込んだ。紅の目をする人間が多々居る。流石帝国エターナル、人口はやはり半端ないものだ。

生まれて初めての都会に目を輝かせながらリュミエールはきょろきょろと周囲を見回す。

高いビルディングの高さに驚いたり、そのビルディングに付いている液晶画面に魅入ったり———。七歳のエンジェルオーラは一時あの残酷な現実を忘れていた。



 歩き続けること、約一時間。漸く帝国の中心部である建物に到着した。


 この巨大な建物には軍部と政治部が合わさっている。白い、石灰石で作られたような外観は中世ヨーロッパの雰囲気を漂わせている。緻密な彫刻が自然と目に入る。

軍服を着た軍人が、何人も往来していた。フリッグは無意識にその中からウェスウィウスを探そうとしたが見当たらないので諦める。

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