ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: デットマン・プリズン ( No.5 )
日時: 2011/01/19 07:02
名前: 桜音ルリ ◆sakura.bdc (ID: emALHbP5)

そんなブライグを見て、ナイトメアはにやにやと笑う。
ブライグが泣き喚けば喚くほどナイトメアの笑みは深くなっていく。
ブライグはナイトメアのそんな表情の変化に気がついた。
ブライグの思考を停止していた脳がまた活発に動き出す。
そして、ブライグはとある答えをはじき出した。

『泣き喚くな。苦しむな。』

先ほどの男は自分の目の前で死んだ。
だがそれは自分には関係の無いことだ。
グレイシアと自分とママに危害が及ばなければそれで良い。

ブライグは自分の恐怖に震える小さなてをぐっと血がにじみ出るまでに握り締め、自分に怖くない、くるしくない、大丈夫だ。と言い聞かせる。
ブライグがぴたりと泣き止んだのを見て、ナイトメアは不機嫌な顔になった。
ナイトメアはブライグを泣かせようと色々なことをいいうが、ブライグの耳にその声はもう雑音としか取れなかった。
ナイトメアはそんなブライグを見て飽きてきたのか、つまらなさそうに片手をあげ、ブライグに向ける。
すると、ナイトメアの周りに黒い何かが集まってきた。
そして、それはブライグに向かって放たれた。
が、それはブライグにあたることは無かった。

ブライグとグレイシアの周りを透明なバリアが覆っていたからだ。

ナイトメアは憎憎しげに顔をゆがませてあたりをきょろきょろと見回す。
と、ブライグの背後をみてにやりと気味の悪い笑みを浮かべた。

「貴様か、タバサ・ディートリッヒ。」

ブライグはその名前が耳に入った瞬間、勢い良く後ろを振り向いた。

タバサ・ディートリッヒはブライグの母親の名前だったから。

やはり、そこにいたのは血塗れた白衣を着て手をこちらに向けて必死の形相をしているが、紛れもなくブライグの母、タバサだった。
タバサはこちらをみて呆然としているブライグをみて、微笑すると、すぐに顔を引き締め大声でブライグに話しかけた。

「ブライグ! 良い? 良くきいてね。ママはこれからブライグとグレイシアを助けるために『禁忌』を犯すわ。だから、ママはもう二人とはお別れなの……」

そこまで聞いた時、ブライグの泣き喚かないという思いは消え去った。
目から大粒の涙をこぼしながらいかないでとタバサに必死に懇願する。
だが、タバサは首をふってきっぱりといった。

「駄目よ。生きて、生きて。生き延びなさい。どんな醜態をさらしても、最後まで生き残る道を探して、あがきなさい。」

いつになく強い母の口調にブライグはびくっとするも、すぐにこくりと頷いた。
そんなブライグをみてタバサは微笑を浮かべた。
そして、ナイトメアに顔を向けるとキッとにらみつける。
そして、タバサは口に手を当てると、指笛で変な抑揚をつけながら短いメロディーを紡いだ。
そのとたん、ナイトメアは喉をかきむしって絶叫しだした。
その指笛に共鳴するかのごとく現れる無数の黒い手。
目の前の光景に呆然とするブライグ。
タバサはそんなブライグに最後に優しいえみを見せると、苦しみ悶えるナイトメアをつかみ、黒い手につかまれてずぶずぶと地面の中に沈んでいった。

『強く、グレイシアを守って、生き延びなさい。』

タバサは沈む時に確かに唇を動かしてブライグにそういっていた。



その日からブライグの平和な、平穏な世界は崩壊した。