ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

第一話 ( No.3 )
日時: 2010/12/29 13:07
名前: 雷燕 ◆bizc.dLEtA (ID: buJGQ2Tw)

 建造物と言っても家等ではなく、鑑賞を目的とされたものだろうか。

 中心に高い塔があり、それを囲むように石の芸術作品と思われるものがあるが、これがデザインとしてどうかなどということは、芸術的センス皆無のオレには全く分からない。
 だがそんなオレでも、細部にまで施された装飾が凄いということくらいは分かる。それに、こんな洞窟の中にあるのだ。K.Jはかつての大富豪と言っても、相当な資産を削られたことだろう。

 ……この物体自体の価値が分からないオレは、そんなことばかり考える。

 頭上には岩石の天井があり、登頂部分に直径3メートルはあろうかというほどの大きな穴が開けられていた。そこから太陽の光が差し込んでいるだけなのでそこまで明るいわけではないが、暗闇に慣れていたオレ達にとっては眩しいくらいだった。

 その大きな穴から差す日の光で、力強く岩と岩の間に根を張っている雑草があった。感心していると、そんなことは全く気付かないシュウがそれを踏みつけて駆けて行った。

 シュウはだいたいオレのやることに乗ってくる。たまに事態を悪化させてしまうこともあるが、それはそれで面白いのでオレ自身は全く気にしていない。レオンはほとほと困っているようだが。運動神経が良くてオレの無茶な要望をだいたい叶えてくれる。馬鹿なのが玉にキズだったりするが、一緒にいると楽しいのでそれもいい。
 ついでに金に目が無いが、それは家のごたごたのせいだろう。

 そんな頼れる彼の行く先は、この建造物の裏側だろうか?
「気をつけろよー!」
「保護者みたい」
 レオンがシュウに向かって言ったので、オレは笑った。
 レオンはいつもオレ達の心配をしていて、オレが何処かへ行こう、何かをしようといったら十中八九止めてくる。まあ、オレが言うことも言うことなんだが……。だが、一度でも疎ましく思ったことは無い。実際今考えたらあれはしなくて方がよかったと思うこともあるし、テンションの上がったオレを冷静に止めてくれる。助かる。

 オレは後頭部の中央で大雑把に束ねた髪をほどき、また同じようにした。今までの道でずいぶんと髪が乱れていたのに気付いたからだ。
 オレがポニーテールなのは単純に床屋(美容院などもってのほか)に行く金がないからで、伸びすぎるとバッサリと切る。そのときはレオンやシュウと同じかそれ以上に短くて、いよいよ女には見えない、らしい。

 周りの人間の大部分は、「髪は長いほうが良い」と言う。「ケリーちゃんはかわいいんだから、もっとおしゃれしたらいいのに」冗談じゃない。「自分のことを『オレ』って言うのも止めなよ」御免蒙る。
 ついでに胸は全くと言ってよいほど無い。そんなもの邪魔だ、という思いが通じたのだろうか。レオンが言うに「普段様々なことをやり過ぎてその上食事も満足ではないので、そこに行く栄養が無い」んだとさ。

「保護者みたいって、お前らが子供すぎるんだ……」
 レオンが呆れたように言った。
「まだまだ子供だよ」
 オレは笑って答える。