ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 第一話 ( No.6 )
- 日時: 2011/01/02 15:48
- 名前: 雷燕 ◆bizc.dLEtA (ID: ThA8vNRQ)
「ほら、ここ。やっぱりこれのことだよ」
レオンの家で、レオンが言った。部屋中に本棚が置かれ、隙間なく本が並べられた部屋。本棚と本棚の間に、三人はいる。
「さすが! 伊達にまともな教育を受けてきたわけじゃないな」
唯一の少女、もといオレが言った。
「その冗談、笑えないからやめてくれないか」
レオンは苦笑する。確かにオレやシュウは年に見合った教育を受けていないが、レオンにとっては考えたくないことの一つらしい。
そんなレオンが手に持っているのは、K.Jの代表作。親に読めと言われて前に読んだことがあるそうだ。オレはうっすらとしか知らないが、(オレなんかでもうっすらとなら知っているが、)確か主人公が妖精に出会ったことをきっかけに冒険に出るという類のファンタジーだった。
その中の一場面で、開かずの扉を進もうとする場面があった。主人公はそれを、魔法で壊して先へ進んでいる。魔法はよくある、火の玉を相手にぶつけるもの。
「でも、オレ達魔法なんて使えないぜ?」
オレが言ってみると、レオンは当たり前だろ、と頷いた。
「そんなにすぐに分かるものでもないだろう」
「でも、やっぱり分かりたいじゃないか」
シュウが言う。そりゃそうだ。分からないものは置いといて、次の「陰が昇る夜」とは何なのかを話してみる。これも、レオンが手がかりを見つけてくれた。それも、本だった。
「K.Jの画集だ。この中に、『陰の昇る夜』という絵があるんだ。夜の風景画なんだが、星は出てるが月が出ていない。つまり、新月の夜ってことだろ。でも実際新月は朝の六時くらいに昇り始めて夜の六時くらいには沈んでるから、『陰の昇る夜』なんてのは……」
後半の現実主義者の呟きは聞き流した。
K.Jは、画家でもあった。小説家であり、画家でもあり、さらには楽器も万能だったと言うのだからたまらない。K.Jを知るほとんどの人間が、彼の才能に嫉妬していることだろう。嫌っている人も多いはずだ。
オレも嫉妬していると言う面では例外ではなかったが、彼のことは好きだった。彼の描く絵は大好きだからだ。彼の華々しい人生とは裏腹な、どこか陰のある雰囲気に引き込まれる。
「それにしても、案外簡単だったじゃないか」
率直だ、と呆れたオレはこう言った。やはり、子供が見ることを想像していたんじゃないのか? それとも、せっかく残したものだから見つからないまま、というのが嫌だったのだろうか。
それから三人で、他の人に話すかなど、これからどうするかを話し合った。そして最終的に(レオンは不服だろうが、)シュウの出した、また明日洞窟に行ってみるという意見で一致した。おそらくシュウはあそこに行くのが楽しいのだ。それと、家に少しでもいたくないのだろう。
明日やることが決まったので、レオンは立ち上がって、本を片付けた。
「もう遅いし、二人とも帰れよ。送ろうか?」
おお、気が利くな。ありがとう——などと言っているシュウはお構いなしに、オレは苦笑しながら答える。
「いいよ。見送りなんて」
そして三人で廊下に出た。