ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 彷徨い人の十字路 ( No.3 )
- 日時: 2010/12/04 15:36
- 名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)
† 第一章 「ゲーデ」と言う名の悪魔 †
ロンドンのとある下町。淡々とした赤茶色の歩道に敷かれた煉瓦に、所々生えている青緑色の草。
金曜日と言う事あってかあまり人の通らないその歩道に一人の青年が歩いていた。
黒色のシルクハットに黒色の燕尾服と一見紳士を思わせる風貌の青年は静かに歩みを進める。
周りの人々はそんな彼の風貌を珍しく思ったのか青年が通り過ぎるとちらりと見つめていた。
しかし青年はそれを特に気に求めず、平然と町を歩いていた。
ふと、ポケットから片眼鏡を取り出したかと思えばそれを装着して、突然辺りを見回す。
すると青年は突然右の方向へ歩き出した。まるで何か不思議な物を見つけたかのように目を見開いている。
右の方向へ進んだ先にあるのは細い路地で先ほどの歩道に比べるとあまり環境は良くない風に思えた。
「ん……?」
青年がぽつりと呟くと細い路地に一人の黒髪の少女がうつ伏せの状態で倒れているのが見えた。
やはり環境の良くない所だったのだろう。少女の着ている衣服はボロボロで髪はぱさつき体には痣がある。
あまりの痛々しさに青年は目を伏せながら少女の下へと近寄り、静かに膝を突く。
顔は白く血が通っていない。完全に息絶えている。青年はもう一度目を伏せた。
(酷いな……)
青年は溜息を着いて立ち上がり、燕尾服の中から折りたたみ式の杖を取り出した。
畳まれた杖はとても小さかったが開いてゆく内に杖は大きくなってゆき最終的には立っている青年の腰まであるとても長い杖へとなった。
青年は杖を一回振ると少女の頭部に触れさせて上へと振り上げ、小さく叩く。
すると少女の頭から淡い水色の霧のような煙が噴出した。
青年は杖を持っていない方の手でその煙に手を伸ばし、煙の中へ手を入れた。
途端に青年の視界は細い路地を移さず、脳は意識を失わせたかと思えば……
——————淡い霧のかかった十字路を視界に映し出した。
青年は特にその場所に驚く事は無く、冷静に歩いていた。
すると先ほどの少女が青年の居る十字路の真ん中に来た。
東西南北の十字路の内、少女は南の方向へと歩き出す……かと思いきや青年は少女の肩を掴んだ。
青年はまだ持っていた杖を少女の額に軽く当てると少女は一瞬にして光になって進み始める。
その光は何処か軽やかに進んでいた。
青年はそんな少女だった光を苦笑した風に見つめながら再度意識を失い、元の路地を視界に入れる。
少女の死体があった場所には、桃色の一輪の花が咲いていた。
「魂が蘇る事を願おう……」
青年はそう言い手を握ってきつく瞼を閉じる。
それは青年にとって一つの儀式でもあった。それがどう言う意味を示すのかは後々知れる事であろう。
青年は立ち上がり、路地を進んで抜け出すとまた歩みを進めた。