ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 彷徨い人の十字路 ( No.13 )
- 日時: 2010/12/04 17:49
- 名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)
何故、スラム街で死んでいる少年が人間外の血が流れているのだろう。
人間外の者は大抵桁外れた能力を持ってる事が多く、その気になれば金などいくらだって貰える。
少年と言えど自分の事は分かっているはずだろう。……ゲーデは焦る心をとりあえず落ち着かせた。
深呼吸を深くし、右手で胸を押さえる。するとそれだけで高鳴っていた心臓が何時も通りに鳴り始める。
とりあえず道は道だ。その司る者に逆らう異議は無い。ゲーデはそう自分に言い聞かせ少年の肩を押さえた。そして杖を額に当て脳に再度意識を失わせ、元のスラム街へと戻った。
「……」
当然、少年も其処に居た。恐らくもう生き返っている筈だろうと思いそっと少年の肩を叩いた。
すると少年はゆっくりと瞼を開け、両手を下に付けて体を起こす。どうやら無事に生き返った様子だ。
ゲーデが安堵していると少年は猫目の碧眼でまじまじとゲーデを見つめている。
その視線に気づいたゲーデは苦笑しつつとりあえず少年に自分の事を教えてみた。
「私はゲーデ……君は?」
一応怖がられないよう、口角をそっと上げて微笑んで聞いてみた。
幸い怖がられはしなかったが少年は首を静かに横へと動かす。何故首を振ったのかとゲーデが考えていると、少年は特に感情を込めず淡々と言った。
「名前を貰ってない。……捨て子だから」
あぁ、成る程……。ゲーデは頭の中で繋がったサイクルに納得しながらどう反応しようかと戸惑う。
人間からは“知識”のみを取っているゲーデにとってこう言う時の対応はなかなか困るものだった。
死んでしまった人間を悼む気持ちはあるが、いざ生身の人間と対応するとなれば難しいと言う話である。
とりあえず少年の身寄りが無い事は分かったけれどどうすれば良いものか。
ゲーデはふぅ、と溜息を付いて右手を顎に当てて考える。すると、一番安易に思える案が脳内に浮かんだ。
「じゃあ……私の旅に付いて来ないか?」
「……旅?」
「そう。そこそこ面白い旅だからね」
そこまで言ってゲーデは再度苦笑した。これではまるで勧誘だと思えてきたからである。
しかし当の少年は先ほどまで何処か虚ろだった瞳をやや輝かせながら深く頷いた。
そんな様子にゲーデはほっとしつつ膝をついた姿勢から立ち上がり杖を畳んで燕尾服の中へとしまう。
そしてふと少年のぼろぼろの衣服に気付き自分の上着を脱ぎ、少年へと着せた。
キョトンと目を微妙に開いた顔でゲーデを見る少年にゲーデはにこりと微笑みながら
「今宵は冷えるからな……服は後で買っておこう」
と言って少年の顔を緩ませた。そしてそんな少年を見ながら今度は左手を顎に当てて
「それと……名前が無いと呼びづらいから、ライトと言う名前をやろう」
……とも言ったのだった。