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Re: 処刑人斬谷断 オリキャラ募集終了&採用オリキャラ決定 ( No.13 )
日時: 2010/12/13 21:46
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第2話 「金色の霧の島」

いったん小百合を家に帰し、断は3名いる「助手」を集めた。

いつも怪しげな実験を行っているマッドサイエンティスト、薬師寺命。

小さい身長からは想像もつかないような怪力の持ち主、夢見黒夢。

真っ黒のコートの中にいくつもの武器を仕込んでいる男、紀伊蜻蛉。

彼らはそれぞれ「裏事情」があり、断とともに探偵事務所でくいぶちを稼いでいる。

「今回の仕事は行方不明者探しだ」

断が簡単な資料を全員に配りながら話を始めた。

「探すのは二瓶政義37歳。宮城県の県庁に勤めている。依頼人は妻の二瓶小百合だ。彼女も宮城在住だ」

「たかだか行方不明者探しで、全員集める必要があったの?」

薬師寺が資料に目をやりながら断にたずねた。

普段は断と誰か1人か2人が依頼をこなす。全員で取り掛かるのはよっぽどの大仕事だけだ。

「ああ、少し匂うんだ」

「匂う?」

夢見が眉間にしわを寄せた。

「ああ、この手紙を見てくれ」

そう言って断は小百合から預かった手紙を見せた。

3人が手紙を覗き込む。

「あ〜、こりゃ確かに匂うわ」

薬師寺が真っ先に感想を述べた。

「確かに、これは怪しい」

紀伊も同意した。夢見も確かに、といった表情をしている。

「おそらく今回は『処置』が必要な件だ。万全を期して全員で執り行うことにする。文句は無いな?」

3人がうなずいた。断は話を続けた。

「2人ずつに分かれて行動する。俺と薬師寺は宮城に行って、金色の霧の島について調べる。夢見と紀伊は小百合の護衛だ。夫が何者かの陰謀に巻き込まれたとしたら、彼女も狙われる可能性がある。泊まっているホテルの住所だ」

断は紀伊に住所が書いてあるメモを渡した。

「みんな、気を抜かずに、細心の注意を払え。よし、行こう」

10分後、4人は事務所を出て行った。







宮城に着き、最初に断と薬師寺が向かったのは、県立図書館だ。

2人が事前に調べた結果、宮城県に黄金に輝く霧の島と呼ばれる島はなかった。

だが、断には1つの読みがあった。

二瓶政義の手紙には「たくさんの人の幸せのために」とあった。

たくさんの人とはつまり、国民もしくは宮城県民のことである。

たくさんの人のためにすること、それは県民の為になること。

転じて、宮城県には県民の生活に関わる何らかの「汚点」があり、二瓶政義はその汚点をどうにかするべく、家を飛び出したのだ。

そう考えれば、宮城県庁の人間は何らかの陰謀を張り巡らせていることになる。

そしてそれは、宮城県のどこかで行われている。

もし、宮城県に一般に知られていない島があったら、隠し事をするのにこれ以上の場所は無い。

そう考えた断は、図書館にある昔の宮城県の地図を探しに来たのだった。

探していたものは、案外あっさり見つかった。

「これが、明治時代の宮城県の地図です」

「ありがとうございます」

断は地図を受け取ると、早速薄い茶色の地図を広げた。

「薬師寺、今の地図を」

「ほい」

薬師寺は現代の宮城県の地図を広げ、古い地図の真横に置いた。

5分ほど地図を眺めていた断は、不意ににやりと笑った。

「どうしたの? 急にニヤニヤして」

薬師寺が若干退きながらたずねる。

「見ろ。ここのとこ」

そう言って断が指差したところを見て、薬師寺はあっと声を上げた。

断が指差した古い地図のその箇所は、現代の地図には存在しない場所だった。

「ここって、島でしょ?」

「そう、島だ。けど、もっと驚くべきは島の名前」

「名前………? ………あっ!」

薬師寺がなるほどといった顔をした。

その島の名前は「金霧島」だった。







一方、二瓶小百合の護衛をしていた夢見と紀伊は、3日目にして、怪しい人物を発見した。

小百合のあとをずっとつけているヤクザ風の男2人。

「バレバレね」

夢見があきれたようにつぶやいた。

「ああ、バレバレだ」

紀伊もため息をついた。

『じゃ、行きますか』

2人は声をそろえて、面倒くさそうにヤクザ男を追った。

しばらく後をつけていたヤクザ男は、小百合が人通りの少ない路地裏に入ったのを見ると、急に歩みを速めた。

「全然尾行になってない。素人だね」

夢見が小走りで走り出した。

紀伊も歩調を速める。

2人が路地裏に飛び込むと、案の定ヤクザ男2人は小百合にナイフを向けていた。

「悪いなあ、べっぴんさんよ。あんたに生きててもらっちゃあ困る人がいるんだよ」

「おとなしくしてればすぐに終わらせてやるからよぉ!!」

小百合は声も出せずに震えている。

その光景を見て、夢見の中の何かが音を立てて切れた。

ヤクザ男のところに猛ダッシュで走ると、有無を言わさずジャンピングキックを叩き込んだ。

「おわっ!!」

不運なヤクザ男は壁に頭を打ちつけ、そのまま気を失ってしまった。

もう片方のヤクザ男はしばらくわけが分からないといった表情をしていたが、やがてナイフをかざして

「なんだてめえは!!」

と怒声を上げ、ナイフを振り上げる。

しかし、すばやく後ろに回りこんだ紀伊が首にスタンガンを当てると、もう片方の男も気絶してしまった。

「え、あ、あなたたちは……?」

小百合がたずねてくるのを無視して、紀伊は断に電話をかけた。

ワンコールで断は電話に出た。

『どうした?』

「当たりだ。チンピラが依頼人を襲ってきた」

『生け捕りにしたか?』

「ああ、2人とも気絶している」

『何をすればいいか、分かるな?』

「ああ」

紀伊は電話を切り、気絶しているヤクザ男をじっと見つめた。








だがこのとき、断たちは知らなかった。これはただの始まりに過ぎないことを。