ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 処刑人斬谷断 オリキャラ募集終了&採用オリキャラ決定 ( No.14 )
- 日時: 2010/12/15 20:45
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
第3話 「迫る悪意」
紀伊が小百合を襲ったヤクザの男2人に手荒な「質問」した結果、彼らは宮城県の県庁職員によって差し向けられたと白状した。
職員の名前は矢代浩介。宮城県知事の秘書で、大量の裏金を所持しているらしい。
紀伊はそれだけ聞くと再びスタンガンで2人を気絶させ、小百合を残し、警察を呼んで夢見とともにその場を後にした。
紀伊と夢見が宮城県行きの新幹線に乗り込んだ頃、断は釣り船のレンタルの手続きをしていた。
「へ? 1日貸し出し?」
「そう、1日貸し出しだ」
船を1日中貸しきる客など普通はいない。受付の中年の男の反応は当然のものであった。
「まあ、できるけど………高いよ?」
「いくらだ?」
「1時間で500円だから……24時間で12000円……それで、何人乗るの?」
「4人だ」
「4人で……48000円」
断は財布からきっちり48000円抜き出し、受付の男に渡した。
「出発は?」
「2人がこっちに向かっている途中だ。着き次第出してくれ」
「はいよ」
受付の男は船の操縦もかねているらしく、すぐそこに止めてある船に向かっていった。
断はそれを見ると、受付から去った。
日が暮れかけた頃、紀伊と夢見が大量の荷物を抱えてやってきた。
「お疲れさん。早速だけど出発するから準備してくれ。『道具』は持ってきたか?」
「ああ」
紀伊は荷物の中から布に包まれた細長い棒を断に放り投げた。
断は受け取ると、紐で胴に巻きつけた。
「聞いてくれ。これから金霧島に向かう。おそらくは何らかの抵抗があるだろうが、どうせ公には知られていない島だ。好きに暴れていい」
それを聞いて、紀伊と夢見がニヤリと笑った。
「それはありがたいね」
「ああ、最近おとなしい仕事ばっかりだったからな」
2人もそれぞれの『道具』を手に待ちきれないといった顔をしている。
「薬師寺は船の中で待機だ」
「了解、死にそうになったらいつでもおいで」
「やめろ、縁起でもない」
断はため息をつくと、操縦士の男がこちらを見ているのに気付き、顔を引き締めた。
「さて、出発だ」
船に揺られること30分。
断たちは目的の場所まで船が行き着いたことを確認した。
薬師寺が適当に振っていた釣竿を座っていた場所に置き、操縦室に向かった。
数秒後、船は動きを止めた。
「よし」
断も続いて操縦室に向かった。
ドアを開けると、注射器を持った薬師寺と、ぐったりとしている操縦士の姿があった。
薬師寺は元政府の科学者で、薬などを作る技術に長けている。
時々この世のものとは思えないような色をした「新作」を作り出すことを除いては、非常に優秀な助手の1人である。
「殺してないよな?」
「もちろん。ただ24時間は何しても起きないよ」
「十分だ」
断は操縦士の体を操縦席からどかし、船の操縦を始めた。
座標をセットし、船の進路を変える。
「ここからはそう遠くない。20分ぐらいで着くはずだ」
「そうなの? 知られざる島だったらもっと遠いのかと思ってた」
「確かに……ま、行ってみれば分かるだろ」
断は船の速度を上げ、まっすぐに金霧島へと向かった。
すぐに、断はなぜ金霧島が今まで知られなかったのかを知ることになる。
島に近づくにつれ、霧が濃くなってきた。
「………あれか」
断は前方に、光に包まれる島を発見した。
「何あれ?」
「サーチライトだな。辺境の島にしてはずいぶん高価なオモチャだ。どうやらここで当たりらしいな」
断は船の速度を落とし、慎重に島に近づく。
「どうやって近づくの? あんだけサーチライトがあったら、バレないでってのは無理でしょ?」
薬師寺が他人事のように言う。
「確かに、一気に突っ込むしかないな」
断は席を立つと、甲板に座っている紀伊と夢見のもとに向かった。
2人は島をじっと見つめていた。
「紀伊、夢見」
2人はすぐに断の方を向いた。
「これから島に突っ込む。何が来てもいいように備えておけ」
それだけ言って断は操縦室に戻った。
紀伊と夢見は顔を見合わせてニヤリと笑うと、それぞれの道具を取り出した。
紀伊は2丁の拳銃、夢見は自分の身の丈よりも大きい両手剣を構えた。
薬師寺はそれを見ると、断のところに向かい、「準備OK」と言った。
「よし、突っ込むぞ!!」
おもむろに船のスピードを上げ、断はサーチライトが照らす海の中に突っ込んだ。
2秒と立たないうちに、けたたましいサイレンが鳴る。
『侵入者を排除せよ!! 侵入者を排除せよ!!』
港に武装した男が何人も出てくる。
「服装がばらばらだな……小百合を襲ったチンピラの一味かもな」
断は構わずスピードを上げ、港にまっすぐ船を走らせる。
射程距離にはいるや、男達は次々に発砲してきた。数センチ横を銃弾がかすめるが、断は顔色1つ変えずに船を操縦した。
そして、男達との距離が数メートルに近づいた瞬間。
一気にエンジンを切り、船首を逆方向にし、スクリューが男達に向くようにした。
船が壊れかねない荒技である。
だが、そんな無茶が功を奏し、スクリューがはじいた海水が男達に降りかかった。
男達の銃弾の火薬は濡れ、これで使い物にならなくなった。
「行け!!」
断は大声で叫んだ。
紀伊と夢見が港に飛び降りるのを確認した断は、操縦室からはい出て、船を下りた。
同時に、紐を外し、巻きつけていた布を取り払った。
布に包まれていたのは、黒光りする日本刀、いわゆる太刀だった。
その太刀の名は「童子切」と言った。
断は静かに童子切を鞘から抜くと、ゆっくりと歩き出した。
左手に童子切、右手にその鞘を持つ。
その面妖な姿に男達は一瞬たじろいだが、やがて大声を上げ、取り囲むようにして、断に襲い掛かってきた。
真っ先に襲ってきた男のナイフが断の首筋に迫る—
その瞬間、断の姿はその場から掻き消え、男達の包囲網の外に一瞬にして移動していた。
「一刀流—『撫で斬り』」
断が剣を鞘に収めると同時に、男達は1人残らず地面に倒れた。
断は振り返ることもなく、再び歩き出した。