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Re: 処刑人斬谷断 第3話更新!! ( No.15 )
日時: 2010/12/17 22:15
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第4話 「処刑人」

矢代浩介は島の中心部にある建物の一室で、侵入者の快進撃をなすすべなく見つめていた。

300人いたはずのヤクザは、あっという間にその数を減らしていた。

「くそっ!! 何なんだあいつらは!?」

矢代は20年間、県知事の秘書という地位にいながら、裏で税金を騙し取っていた。

そして、存在自体知られていないこの金霧島に騙し取った税金を隠し持っているのだった。

この島がある限り、いつまでも安心して税金を騙し取れる—

しかし、そんな矢代の目論見はたった3人の侵入者によって潰えようとしていた。

誰にも知られるはずのない島を調べ上げ、明らかな敵意を持って踏み込んできた。

万が一にも、侵入者を生きて島から帰せば、それだけで矢代は破滅する。

そんな事態は絶対に避けなければならない。

(少し高くつくが……やむをえんな)

矢代はこの島で1番腕が立つ「殺し屋」の電話番号を押した。

相手は直ぐに出た。

「もしもし」

「俺だ。島で騒ぎが起きているのは知ってるな。ネズミどもを始末してくれ」

「人数は?」

「3人だ。1人500万出そう」

「1000万だ」

矢代は一瞬ためらったが、この男なしには切り抜けられないと直ぐに判断した。

「いいだろう、1人1000万だ」

「引き受けた。あんたはそこで高みの見物でもしてな」

殺し屋は電話を切った。

矢代は携帯電話をデスクの上に置くと、大きなため息をついた。

あとは、殺し屋がうまくやってくれることを祈るしかない。





断は建物に向かってどんどん近づいていった。

時折ヤクザが襲ってくるが、断の剣技の前では赤子も同然だった。

そして、あと建物まで300メートルほどまで迫ってきたとき。

断は、足元に違和感を覚えた。

顔を下に向けると、断がいる場所だけ地面が柔らかくなっているようだった。

「……まさか」

断はやわらかくなっている部分の土を払った。

すると、現れたのは肌が青白くなった男の死体だった。

首にペンダントをぶら下げている。

断はそっとペンダントに手を伸ばすと、蓋を開けた。

中には、二瓶小百合と仲良く並んでいる男の姿があった。

「………くそっ」

断は唇を噛みしめた。

この男こそ、依頼人の二瓶小百合が探していた男、二瓶政義に違いなかった。

断はペンダントを男の首から外し、ポケットの中に入れた。

「その男は俺が殺した」

刹那、断は背後に殺気を感じた。

振り向くと、2メートルはあろうかという大男が立っていた。

手には斧が握られており、その姿は獰猛な獣を思わせる。

「お前が殺した…?」

断は低い声で言った。

「ああそうさ、うちの依頼人は金持ちでね。そんな男1人に500万の報酬をかけてくれたんだよ」

大男は大声を上げて笑った。

断はすっと目を細め、童子切を抜いた。

「おいおい、俺とやろうってのか? やめとけ、おとなしくしていれば一瞬で終わらせてやる」

「それ以上しゃべるな。一瞬で終わるのはお前だ」

男は一瞬面食らったような顔をしていたが、すぐにその顔は怒りにゆがめられた。

「どうやら貴様は俺を知らないらしいな。俺は裏の世界じゃあちっとは知られた殺し屋だぜ!」

「それがどうした。俺は裏の世界には興味がない」

「減らず口を……後悔するなよ、小僧!!」

大男は、吠えながら突進してきた。

断はその場から一歩も動かない。

「ふははは!! 俺に恐れをなしたか!?」

大男は斧を振り下ろした。

断は童子切を突き出し、斧の軌道を変えた。

一切の無駄が省かれた動き。

勢いあまった大男はそのまま転んだ。

「どうした? 一瞬で終わるんじゃなかったのか?」

断はニヤリと笑いながら言った。

「貴様ァ…!! 俺を誰だと思っっている!! 俺は『斧振りの鬼頭』だぞォ!?」

大男、鬼頭は再び斧を振り上げた。

「驕れる者は久しからず—」

不意に、断が童子切を鞘に収めた。

「あ?」

「その脆きこと、風の前の塵のごとくなり—」

「何をごちゃごちゃと! 死ねっ!!」

鬼頭が斧を振り下ろした。

が、斧は空を切り、地面に突き刺さった。

「……!?」

鬼頭が慌てて回りを確認する。

「……あの野郎!!」

断はすでに建物に向かって歩き出していた。

「なめやがって……!!」

追いかけようと、一歩踏み出した瞬間—

鬼頭は血しぶきをあげて倒れた。

「一刀流居合—『盛者必衰』」

断は童子切を左右に払って血を払ったとき、すでに建物は目の前にあった。






なんということだ。斧振りの鬼頭までもが殺されてしまった。

矢代は悪夢を見ている気分になった。

このままでは、金どころか命までもが危うい。

急いで逃げなければ—

矢代は無線で船を用意するように言うと、急いで部屋から出ようと扉に向かった。

しかし、扉の目の前に来たとき、不意に扉が開いた。

「うわっ!?」

矢代は後ずさりし、尻餅をついた。

入ってきたのは、断だった。

「ひっ……!」

「あんたを探していた。矢代浩介」

断は冷たい目で矢代を見下ろした。

「わっ、私に何のようだ!?」

「とぼけるな。分かっているだろう」

「な、何のことだか……」

あくまでも矢代はシラを切る気らしい。

断は無言でデジタルレコーダーを取り出すと、スイッチを入れた。

『俺の名前は佐々木金蔵。暴力団、黄山会の組員です。矢代浩介は20年間に渡り宮城県の税金を横領し続けました—』

「もういい! 止めろ!!」

矢代は苦虫を噛み潰したような顔になった。

このときのため、断は二瓶小百合を襲ったヤクザに証言をさせたのであった。

矢代は黙り込んだままだ。

断は童子切を抜いた、すると矢代は目の色を変えた。

「私を殺す気か?」

矢代の目に恐怖の色が映っている。

「や、やめろ……やめてくれ!!」

「あんたは、あまりに多くの人を苦しめすぎた。往生しな」

「頼む、やめてくれ! 金ならいくらでも払う!」

「1ついいことを教えてやるよ、矢代さんよ」

断は顔を矢代の耳元に近づけた。

「人の命は金じゃ買えないんだ」

「や、やめ—」

全て言い終わる前に、断は矢代を斬り捨てた。

そしてゆっくりと、童子切を鞘に収めた。





「斬り捨て、御免」