ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 処刑人斬谷断 第4話更新!! ( No.16 )
- 日時: 2010/12/18 15:39
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
第5話 「悲しみを救うもの」
あれから1週間がたった。
断たちがさらに調べた結果、金霧島の陰謀には矢代以外にも、大勢の人間が関わっていたことが判明した。
その中には、なんと県知事もいた。
前代未聞の一斉検挙で、県庁の職員のうち実に4割が逮捕され、宮城県は対応に追われており、全国のニュースで大々的に報道された。
思惑通り、巨悪は制裁される形になったが、断は暗い気持ちでいた。
依頼人二瓶小百合の夫、二瓶政義。
彼は時既に遅く、帰らぬ人となったからだ。
既に小百合はこの事実を知っている。断は金霧島から帰るときに電話をしていた。
これから、二瓶小百合は事務所に来る。
だが、面と向かって何と報告すればよいのか、断には分からなかった。
あれこれと悩んでいる内に、玄関がノックされる音が響いた。
今日は助手の3人はそれぞれ用事があって外出中だ。
断は重い足取りで玄関に赴き、ドアを開けた。
「こんにちは」
二瓶小百合は断に笑顔を向けた。
「お待ちしていました。どうぞ」
断も笑顔で返し、応接室へ小百合を通す。
断は慣れない手つきで紅茶を用意した。
普段こういった応対は薬師寺がやっているので、断はこういった作業に慣れていない。
そのぎこちない様子を見て、小百合はクスクスと笑った。
「い、いや、すいません。不慣れなもので…」
断は顔を真っ赤にして頭をかいた。
「いえ、眼帯してるし、怖い人かなーって思いましたけど、そういうところもあるんですね」
そう言われ、断は更に顔を赤くした。
それでも何とか紅茶を用意し、話を始めるところまでこぎつけた。
「……いくつか報告があります。いい報告と、そうでない報告と」
「…はい」
断は一瞬、間を空けた後話し始めた。
「先日お伝えしたとおり、残念ながらご主人は亡くなられておりました。申し訳ありません」
小百合はうっすらと涙を浮かべていた。
「ご主人は、首にこれをつけていました」
断はポケットから、ペンダントを出し、小百合に渡した。
小百合は、ペンダントの蓋を開けると、嗚咽を漏らし始めた。
断はどう声をかければよいか、分からなくなった。
(そうだ……あの話をしよう)
「あの、二瓶さん」
小百合は涙を拭うと、「何でしょう?」と無理矢理笑顔を作った。
「実はあの後、金霧島について調べてみたんです」
「え……?」
「金霧島には、その昔、黄金の隠し場所だったという伝説があったんです。その黄金の輝きが、霧に反射し金色に光るから、金霧島と呼ばれるようになったんだそうです」
「………?」
小百合はわけが分からないといった顔をしている。
「しかし、その島には黄金の番人がいて、近づくと彼らに殺されてしまうと言われていた。実際に何人もの人間が金霧島に向かったが、1人も帰ってこなかった。そこで、当時の人間が一切の地図上から金霧島を消した……しかし、いつしか、そんな伝説も忘れられた頃、ある漁師が、金霧島を偶然発見してしまったんです」
断は話を区切った。小百合は相変わらずポカンとした表情だ。
「漁師は金色に輝く島を見て、きっと宝があるに違いないと、島に近づいた。しかし、不意に、漁師の耳にある声が聞えた。『島に近づくな。殺されるぞ』という声が。信心深い漁師はそれを神のお告げと信じて、おとなしく引き返し、事なきを得た……という、宮城県に伝わっていた伝説です」
「あの、それ主人と何か関係が……?」
「ここからが本題です。私は先日、地元の漁師に聞いてみました。何故金霧島に近づかなかったのかと。あそこはそれほど陸から離れているわけではなく、少し足を伸ばせば、簡単に見つけられる位置にあるから。なら今まで発見されなかったとは考えづらい。いくら地図から消された島であっても」
「……どうしてだったんですか?」
「声が聞えたんです」
「……声?」
「『島に近づくな。殺されるぞ』って声が聞えて、漁師達はあえて見てみぬふりをしていたんです」
「……え?」
断は紅茶をすすった。
「ひょっとしたら、ご主人が警告していたんじゃないでしょうか。島に近づけば危ない目にあうと。死んでなお、誰かを守ろうとしたんじゃないでしょうか」
「……!!」
小百合は目に涙を浮かべた。
「ご主人は誰より勇敢で、正しい人だった。もしかしたら、今回私が無事に巨悪を暴けたのも、ご主人のおかげかもしれませんね」
断は再び紅茶をすすり、腰を上げた。
「私からの話は以上です」
小百合はもう涙を止めようとはしなかった。
断は静かに、小百合を見つめ続けたのだった。
しばらくした後、小百合は断が絶句するほどの大量の札束を残し、事務所を後にした。
入れ替わるように、外出していた3人が帰ってきて、断と同じく目の前の札束に絶句した。
「これ……億あるわよ。クスリがいくつ買えるかしら?」
「嘘でしょ…諭吉が1万人…?」
「そういえば……宮城の二瓶と言えば県内でも3本の指に入る資産家だって聞いたことがあるぞ」
探偵事務所を、奇妙な沈黙が包み込む。
『で、金どうする?』
断以外の3人の声が一斉に重なった。
お互いに見つめあい、醜い争いが始まった。
「私がもらうべきよ! だって1番の古株だもの!」
「あなたが貰ったってクスリに使うだけでしょ! 私の身長伸ばすための資金として…」
「俺小さいほうがお前はかわいいと思うぞ。というわけでこいつは俺のもんだ」
「棒読みで言われても嬉しくなーーーい!!」
断は目の前の惨状に目を覆った。
(結局………人は金に踊らされるんだな)
断は苦笑いしながら、目の前で繰り広げられる醜い争いをもう少し眺めることにした。