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Re: 処刑人斬谷断 第5話更新!! ( No.24 )
日時: 2010/12/22 18:04
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第6話 「探偵の朝」

斬谷断と3人の助手達は、探偵事務所に隣接している家に住んでいる。

普段から常軌を逸した行動ばかりする助手達のおかげで、家は毎日何かしらの騒動が起きる。

中でも、断が特に頭を抱えるのは朝だ。

助手3人は寝起きがとても悪い。




①薬師寺命の場合

「おい、薬師寺、起きろ、朝だぞ!!」

「んもう………そんなに私の安眠を邪魔したいの……おしおきが必要ね」

「…………おい、何だその液体は」

「私の機嫌を損ねたクソッタレ用の毒薬よ。まる3日間苦しみぬいて死ぬがいいわ」

「待て! お前寝ぼけてるぞ! いや、腕をつかむな、注射器をセットするな、ニヤニヤ笑うなーーー!!」

「時すでに遅しよ。お前は俺を怒らせた……」

「性格違うぞお前!? あっおい…ぎにゃあああああああああああああああああ!!」




②夢見黒夢の場合

「おえ……気持ち悪…どんな毒を作ってんだあのマッドサイエンティストめ…おい、夢見、朝だぞ起きろ」

「う〜ん………断…? ちょっとこっちこっち」

「?」

断は夢見が手招きするがままに近寄った。

「えい!」

「うわ!?」

断は強制的にベッドに引きずり込まれた。

「えへへ〜断〜私と大人のお遊びしよ♪」

「何だ大人のお遊びって! ……って、夢見!? ちゃんと服着て寝ろ! いくら何でも寝相が悪すぎるぞ!!」

「いいじゃ〜ん、いっつも仏頂面しちゃってさ〜、リラックスリラックス〜♪」

「幼いのは身長だけじゃないのかお前は!?」

「んもう、断も好・き・な・く・せ・にぃ♪」

「何がだ!? おい待て早まるな! あ、あ、ぎにゃあああああああああああああああああ!!」





③紀伊蜻蛉の場合

「危なかった。もう少しで大人の階段上るとこだった………おい、紀伊、起きろ朝だぞ」

「俺は今日腹と頭と足と手と毛細血管に激痛が走っているから起きるのは無理だ」

「嘘がへたくそすぎるぞ。さっさと起きてくれ」

「ダメだ。全身にガンが転移している。この数時間で」

「いやだから嘘へたすぎだっての。起きろってば」

「うお……盲腸…だと…!?」

ブチッ

断の何かが切れた。

「うおらあああああああああああ起きろやあああああああああああああ!!」





以上の通り、断は毎朝こんな目にあっているのだった。

しかも3人は、起きて5分もすれば朝の記憶が消えているので、断は注意のしようがない。

「あら、斬谷君。具合悪そうね。私のクスリで一発やってあげましょうか?」

「何だ、断!? ははーん、さては夜更かししたな!? まったく、これだから断は…」

「おいおい、剣士たるもの自己管理が重要なんじゃないのか!?」

だから、このようなことを言われても、必死に耐えるしかない断であった。






探偵事務所は365日営業中だ。

なぜかというと、断たちはある理由で金が必要だったから。

そしてあまり依頼人が来ないので、いつでも休みのような状態だからだ。

しかも、戸籍上は死んだことになっている断は、あまりおおっぴらに宣伝が出来ない。

だから断たちはただクチコミで噂が広がるのを待つ意外に方法は無いのだった。

つい最近の依頼は、3日前に片付いた。

少なく見積もってもあと2週間は依頼人が来ないだろうというのが断の予想だった。

ところが、今日も探偵事務所のドアがノックされた。

薬師寺がちょうどいなかったので、断は直接玄関に出た。

「はい、どちら様でしょうか…?」

ドアを開けると、そこにいたのは真っ赤な髪をワックスで強烈に立ち上げた高校生とおぼしき少年の姿があった。

「ここ、探偵事務所だろ。頼みがあんだけど」

(ずいぶん態度が悪いな……そのへんの不良か)

断は内心そう思いつつも笑顔で少年を応接室に通した。

「それじゃあ、名前を聞こうか」

「俺は楠田悠斗」

楠田と名乗った少年は、『命城』と書かれた制服を着ていた。

命城学園。

地元では1,2を争うほどの名門校である。毎年東大に50人ほど合格者が出ている。

しかし、校則は非常に厳しく、学園内での恋愛は禁止を筆頭に現代の常識がほとんど認められていない。

そのため途中でやめる生徒も多いという評判だ。

(けど、こいつはそんな名門校の生徒には見えないな……)

断は疑問を心の中で収め、話を聞くことにした。

「それで、頼みというのは?」

「俺の彼女を探して欲しい」

「彼女? 学園内で付き合っているのか?」

「ああ、そうだ」

「そうか……探して欲しいというと、失踪したのか?」

「いや、多分誰かに誘拐されたんだと思う」

その答えに、断は思わず苦笑した。

「それを決めるにはまだ早いんじゃないか? 家の用事でしばらく休んでいるとか…」

「いや、それはない。確かめたからな」

「確かめた、というと?」

「家に忍び込んだのさ」

「無茶するね……」

無茶なら断もよくするが、それは楠田の無茶とは似て非なるものだ。

断はあらゆる可能性を検討して無茶をするが、おそらく楠田は違うだろう。

「とにかく頼む。彼女を探してくれ」

楠田は頭を地面にこすり付けんばかりの勢いで頭を下げた。

断はその必死な姿に心を打たれ、努力する事にした。

「分かった、探してみる。まず彼女のことを教えてくれ、なるべく詳しく」

「悪いな。えっと……名前は西園寺真冬」

「西園寺……まさか、『ネクスト』の西園寺由蔵の娘か!?」

「ん? 知ってるのか?」

「ああ……知ってる」

世界でも5本の指に入る貿易会社ネクストと、1代にして巨万の富を築いた創始者、西園寺由蔵を知らないものは日本にはそうそういないだろう。

思わぬ大物が関わっていることを知り、断は表情を険しくした。






こいつはヤバイ件になるかもしれない。

断は心のどこかでそう感じていた。