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Re: 処刑人斬谷断 第6話更新!! ( No.26 )
日時: 2010/12/22 20:08
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第7話 「不良と令嬢」

断はとりあえず依頼人である楠田を家に帰し、助手3人を集めた。

断は今回の依頼内容と、その危険性について話した。

案の定、3人は難色を示した。

「あの西園寺がからんでくるとなると……この間みたいに派手にってわけにもいかないわね……」

薬師寺は何かの薬品を調合しながら他人事のように言った。

「その通りだ。今回の依頼は慎重を期することが重要だ。だから紀伊と俺でやる」

その言葉に、夢見がくいついた。

「ちょっと! それって私が短気ってこと!?」

「実際そうだろ……」

紀伊がボソリと言った。

「聞えたわよ蜻蛉!! 断、こんな嘘つき野郎より、私の方が絶っっっっっ対役に立つわ!!」

「落ち着け、夢見」

断は少し声を張り上げた。

「別にお前が短気だからじゃない。紀伊は俺達の中でも隠密行動に長けている。お前は何かと目立つから、今回は別の仕事を頼むよ」

「………断がそう言うなら」

夢見も紀伊の実力は認めているため、あっさりと引き下がった。

紀伊は準備してくると言って部屋から出て行った。

夢見はムスっとした様子で紀伊の姿を見えなくなるまで見つめた。

「それで? 私は何をするの?」

「お前と薬師寺には、手がかりを追ってもらう。これを見てくれ」

断は上着のポケットから封筒を取り出した。

「これは……?」

「政府の機密文書だ。『ジョーカー』がハッキングして手に入れた。内容はある極秘作戦の報告書だ」

「ある極秘作戦って……?」

薬師寺が手を止めて顔を上げた。

「3年前、東京の某所で行われたテロ組織襲撃作戦だ。報告者の男について調べてくれ」

「3年前のテロ組織襲撃作戦って……まさか…」

薬師寺と夢見が断を見た。







「ああ。俺が殺されかけた時の作戦だ」






楠田悠斗は、幼いころからその天才的な頭脳で大人たちの注目を浴びてきた。

幼稚園にしてすでにそのIQは150を越えるというまさに「神童」だった。

時が経つ程に、彼をおだて、賞賛する人間は増えていった。

加えて彼は、スポーツも勉強にこそ及ばないものの、非凡な才を発揮した。

それは名門命城学園初等部に入学しても変わらなかった。

並み居る天才を押しのけ、彼は常に人々の頂点に君臨し続けた。同級生や教師はもちろん、全国の有名大学教授をしても彼は怪物だった。

次々と常識破りな才を発揮し続け、中等部においても彼の右に立てるものはいなかった。

しかし、人生で初めての試練が彼を襲った。

彼の父親が、脱税と横領の罪で逮捕されたのである。

厳密な捜査の結果、いずれの罪も濡れ衣ということが判明し、彼の社会的な地位はなんらおびやかされることはなかった。

しかし、一回張られた犯罪者の息子というレッテルは、はがれることはなかった。

もともと何をやっても成功続きだった彼をねたむ人間は多かった。

彼に及ばなかったというだけで、親からプレッシャーをかけられてきたほかの生徒は、ここぞとばかりに楠田を攻撃した。

最初はほんの数人だった。しかし、時がたつにつれ、その数はどんどん増えていき、ついには誰も彼に話しかけなくなった。

それまでさんざん楠田をちやほやしてきた教師までもが、彼を無視するようになったのである。

楠田は耐え切れず、心を閉ざし、全てを遠ざけることによって、全てを失った。

これまで挫折がなかった彼にとって、ショックはなおさら大きかった。

それに呼応するように、楠田の成績はズルズルと降下し、半年後には学年でも最下位から数えたほうが早い位置までになってしまった。

親との会話も少なくなり、彼は髪を真っ赤に染め、ワックスで固め、アウトローを装った。

気に入らないと感じれば、人であろうとものであろうと暴力を振るい続けた。

だが、彼が人を遠ざけようとすればするだけ、際限なく虚無感に蝕まれていった。

そしてある日、自殺しようと人があまり通らない校舎裏の大きなスギの木に向かった。

脚立と、首を吊るためのロープを持って。

だが、スギの木には、人がいた。

「な………!!」

なんでここに。思わず楠田はつぶやいた。

スギの木の下で、本を読んでいた生徒—西園寺真冬は、顔を上げると、ニコリと笑った。

「…あなたも本読みに来たの?」

「え? い、いや…」

楠田は慌てて脚立とロープを後ろに置いた。

「ここ、私のお気に入りなの。えっと…楠田君だよね……あなたも、ここがお気に入りなのかな?」

「あー……うん、そうだ」

楠田はとりあえず話をあわせることにした。

「そっか。……少し話をしない? 1度君とは話がしたかったんだ」

楠田は怪訝な顔になった。

「俺と……話を?」

「うん」

楠田は眉をひそめた。

楠田の悪名は学園内に広まっている。

当然、楠田の名前を知っている真冬の耳にも入っているはずだ。

なのに何故、真冬は自分と話したがるのか?

楠田は一種の不信感を覚えた。

「あのさ……西園寺さん?」

「うん、何?」

「自分で言うのもなんだけどさ…俺みたいなのとさ、何で話したがるんだ?」

真冬は少し考えた後、答えた。

「うーん……楠田君って、どういう人なのかなーって思って。みんなは楠田君は犯罪者の息子だって言ってるけど、実際あなたのお父さんは何もしてないし、そもそもそれだけで陰口たたかれる意味も分からないし」

「あ………そうか」

そっけなく答えたが、実のところ、この言葉は楠田が1番言って欲しかった言葉だった。

誰も、本当の自分を見ようとはしない。だが、真冬だけは自分を見ようとしている。

「ね、楠田君。話してもいいでしょ?」

「ああ……いいよ」

この時から、楠田悠斗は西園寺真冬に恋をしたのだった。






断と紀伊は、楠田と真冬の詳しい情報を手に入れるために、命城学園を訪れていた。

「で…………どういうことなんだ。紀伊」

断と紀伊は、2人とも命城学園の制服を着ていた。

「悪いな。年齢を偽ってもぐりこむしかなかった。それ以外だと審査が厳しすぎて」

「そうか………まあいい、やるしかないか」







断は大きくため息をつくと、校舎の敷地に足を踏み入れた。