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- Re: 処刑人斬谷断 第8話更新!! ( No.28 )
- 日時: 2010/12/29 18:04
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
第9話 「暗躍」
〜2日前〜
「娘さんが誘拐されて、大変でしょう」
断は由蔵に会うや、早速本題を切り出した。
「いやはや、夜も寝られませんね。娘のことを思うと」
「お察しします。ところで、娘さんが誘拐されたことを知ったのはいつごろのことですか?」
「1週間前です。家にこんな物が届いていまして」
由蔵は背広のポケットから封筒を取り出した。
「拝見します」
断は封筒を受け取り、中身を取り出した。
写真と、ワープロで作成したと思われる文書。
写真の方は、猿ぐつわをはめられ、両手を縛られている真冬の写真。
文章には、こうあった。
『娘は預かった。返して欲しければ2週間以内に現金3億円を用意しろ。また連絡する』
断は一目で違和感を感じ取った。
「由蔵さん、警察には連絡しましたか?」
「いえ、連絡はしていません」
「……娘さんが誘拐されたのにですか?」
「ええ。警察に相談して娘に何かあったら……と思いまして」
「そうですか。ちなみに、電話などで誘拐の件を誰かにご相談されましたか?」
「はい。親しい友人に何度か」
「なるほど……犯人からその後は連絡はありましたか?」
「いえ、何も」
「本当に?」
「ええ、本当です」
断はわざと困ったような顔を浮かべた。
「おかしいですね……」
「な、何がです……?」
「いえ、警察には連絡するなといっておきながら、友人への連絡は無視するって、矛盾しているなと思いまして」
由蔵は明らかに動揺し始めた。
「そ、それは………見落としがあったんでしょう」
「犯人はあなたの動きを監視しているはずです。何回かかけた電話を全て見逃す、こんなことがあるんでしょうか?」
断が畳み掛けるように反論すると、由蔵は不意に立ち上がった。
「あなたは何が言いたいんですか? 私は娘を探して欲しいと言っているんだ!! あれこれ詮索しないでいただきたい!!」
「失礼ながら、由蔵さん。それは無理です。娘さんを探す以上、あなたの話から、犯人の情報を探すしかないんです」
「なら、詮索しない探偵を雇う!! 出て行ってくれ!!」
由蔵は完全に我を失っている。
断は成功を確信しながら、立ち上がった。
「いいでしょう、出て行きます。最後に1つ、いいでしょうか」
「な、何だね!?」
「私は、あなたが誘拐に関わっていると思います」
「なっ……何だと!?」
「動機は揃っていますよね? ネクストは最近、ライバル会社の台頭によって経営不振に陥っているとか……今回の事件を使って、上手いこと株主やあなたの協力者からお金をせしめれば……何とかなるんじゃありません?」
ネクストが経営不振に陥ったことは、事前に断が調査していた。
「ふっ…ふざけるな! 侮辱もはなはだしい! さっさと出て行け!!」
由蔵は怒りで完全に頭がいっぱいだ。
断は後ろを向きながら、とどめの一撃を放った。
「証拠さえつかめば……あなたはおしまいだ。覚悟する事ですね」
「………!!」
由蔵は先程までの勢いとは逆に、黙り込んでしまった。
「失礼します」
由蔵は落ちた。そう断は確信した。
〜2日後〜
「そういや、断。決定的な証拠って何なんだ?」
紀伊が断に尋ねた。
断は無言でICレコードを取り出し、スイッチを入れた。
『おい、私だ!! まずいぞ、探偵が私を疑っている! 証拠をつかむかもしれない、私が娘を誘拐したと知られてしまっては会社はおしまいだ! 何とかしてくれ!!』
紀伊は「盗聴したのか」とつぶやいた。
「握手したとき、腕時計に磁石がついてる盗聴器を仕掛けた。すぐに動くだろうと踏んでいたが、大当たりだったな」
断はニヤリと笑った。
「毎度毎度、お見事な腕だねえ…」
「探偵だからな」
「普通の探偵は盗聴なんかしないっての…っと、出てきたぞ」
由蔵が回りを気にしながら出てきた。手にはスーツケースが握られている。
目立ちたくないのか、サングラスにコートを着用し、さらに徒歩で移動している。
「完璧だ」
断と紀伊はすぐにあとを追った。
由蔵は、しばらく歩き、銀行に入っていった。
「スーツケースもって銀行か………」
紀伊があきれたような声でつぶやいた。
「現金を手元に置いておこうと考えたんだな。典型的な疑心暗鬼に陥った人間の行動パターンだ」
待つこと十数分、由蔵が銀行から出てきた。
家から出てきたときよりも周りを気にしている。
「行くぞ」
断と紀伊は再び尾行を始めた。
由蔵は早歩きになっている。
常にあたりを見渡しながら、スーツケースを大事そうに抱えて歩いていく。
「よし、次の門で追い込むぞ」
「了解」
紀伊はそのまま由蔵を追い、断は走って別の道に曲がった。
由蔵は尾行には全く気付かず、そのまま人が通らない西園寺邸の脇の道を曲がった。
と、その時—
「由蔵さん」
断が前に立ちふさがった。
「おっ……お前は!?」
慌てて逃げ出そうとしたが、紀伊が後ろに回りこんでいた。
「なっ…何のマネだ!?」
「スーツケースの中身、拝見したいですね…」
断が一歩前に出た。
「ふっ…ふざける—」
全て言い終わる前に、紀伊がナイフを由蔵の首に押し付けた。
「ひっ…」
「あんた、娘の誘拐に関わってるんだろ」
断は態度を変えて、ぶっきらぼうに言った。
由蔵は消え入りそうな声で「そ。そうだ…」と言った。
「理由を聞こう」
「お前の言ったとおりだ…会社が、傾きかけて……社員を路頭に迷わせるわけにはいかなかった……!!」
「娘より、社員を優先させた?」
「うちには数え切れないほどの社員がいる。娘を犠牲にしてでも、彼らの生活は守らねばならなかったんだ…」
紀伊は由蔵を見たまま「どうする?」と言った。
断は少しうつむき、考えた後…不意に顔を上げた。
「娘はどこだ」
「分からない。私が裏切らないように、娘の管理は全て任せろと言ってきたんだ」
「それじゃ、やつらの思うつぼ—」
と、その時、電話が鳴った。
「私の携帯だ」
由蔵はおそるおそる通話ボタンを押した。
「はい……え? わっ…分かった」
由蔵は携帯を断に渡した。
「あんただ」
「……?」
断は携帯を耳に当てた。
「俺に何の用だ」
『やあ、君か。我々の邪魔をする探偵は』
「用件を言え」
『取引をしようじゃないか。由蔵が集めた金をもってこい。出なければ娘は殺す』