ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 処刑人斬谷断 第9話更新!! ( No.29 )
日時: 2010/12/31 13:16
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: q7/5/h0o)

第10話 「激昂」

「狙いは最初から金か」

『そうとも。いくら会社が経営難だからといって、あんなに簡単にだまされるとは、哀れな男だよ』

電話越しの政府の役人は大声をあげて笑った。

断は湧き上がる怒りをこらえ、冷静に話を進めた。

「金を渡せば、娘は開放するんだな?」

『もちろん、金さえ手に入れば、あんな女に用はない。殺すと後始末が面倒だし、ぜひ引き取ってもらいたいね』

人の命をモノとしか見ない役人に断はさらに怒りを募らせた。

「わかった。場所を言え」

『15分後、尾瀬港の12番倉庫だ』

役人はそれだけ言うと電話を切った。

断は携帯を耳から離すと、すべてを由蔵に打ち明けた。

由蔵は案の定絶望的な表情になった。

「そんな……」

すべてをかけてやってきたことがすべて水泡に帰した。

当然の反応だった。

断はあえて何も言わず、紀伊に「行くぞ」と言った。

すると、由蔵はあわてて断の前に立ちふさがった。

「待ってくれ!! 頼む、娘を助けてくれ!!」

断はしばし間を開けてから口を開いた。

「俺は最初からそのつもりだった。あんたに言われるまでもなく」

「………」

「だが、協力するというなら、その金を俺に預けてくれ」

由蔵はすぐにスーツケースを断に渡した。

「お前たちをだまして悪かった。だが……」

「由蔵さん。あんたはもう何も言うな」

由蔵は口をつぐんだ。

「あんたが何でこんなことをしたか。理由は十分わかった。もうあんたを責めはしない、だが1つ約束しろ。娘が帰ってきたら全てを話すと」

由蔵は断の目を見据えてはっきり答えた。

「約束する」

「なら、家で待っていてくれ」

断は踵を返し、港へ向かった。








約束の時間まであと3分となったころ、断と紀伊は12番倉庫に到着した。

倉庫の扉の前には、スーツを着た男が複数人いた。

「あいつらはプロだな」

断は一目で彼らの正体を察した。

「どうする?」

紀伊はすでに銃を構えている。

「入口は1つ。だがその入り口はしっかり固められている。ということは—」

「正面突破、ね。相変わらず無茶苦茶だ」

紀伊はため息をついた。

「悪いな。これも探偵の仕事だ」

「普通の探偵は太刀はかまえないって、っの!!」

言いながら紀伊が男たちに向って発砲した。

不意を突かれた男たちだったが、すぐに体勢を立て直し反撃してきた。

そこへ—

断が躍り出た。

一直線に男たちのところへ向かっていく。

「なんだあいつは!?」

「刀でやる気か!?」

「構わねえ! 撃て!!」

男たちは一斉に断に発砲した。

しかし、銃弾は全て断のもとにたどり着く前に弾き飛ばされた。

「何だ!? どうなってる!?」

「一刀流—」

断はそのまま突っ込み、男たちをもすり抜けた。

そして扉までたどり着き、刀を納めた。

「『風曝し』」

男たちは声もなく、全員崩れ落ちた。

「ったく、走り抜けるだけで風起こすって……」

紀伊があきれた声でつぶやき、後に続いた。









「紀伊、準備はいいか」

断は紀伊がつくなり、倉庫に入ろうとした。

「いつでもどうぞ」

2人は顔を見合わせ、同時にに扉を蹴り倒した。




「ようこそ、お二方」




中には、300人ほどの男と、電話をかけてきたと思われる役人がいた。

「……罠か」

紀伊がつぶやいた。

「まさか、素直に娘を返すとでも? ………もっとも、君たちも金は持ってきていないようだが」

男たちは全員武装している。

「娘は返してもらう。抵抗するなら命も貰う。これが条件だ」

断は平然と言ってのけた。

これには役人も呆けた顔をした。

「…いやはや、驚いた。君は頭のいい人間だと思っていたが、存外そうでもないようだ。これだけの数相手に君は何を言っている?」

「同じことを何べんも言わすな。娘は返してもらう。抵抗するなら……命をもらう!!」

断は童子切を抜き出した。

男たちは断の迫力に一瞬たじろいだが、ほどなく一斉に銃を構えた。

「紀伊、下がってろ」

断が静かに言った。

紀伊はすぐに意味を察して、後ろに下がった。

「何をしようというのかね? まさかそんな刀1本で我々に勝つ気か?」

断は無視して、その場で剣をふるい始めた。

最初はゆっくりと、だが、どんどん速く。

剣を振る速度は加速度的に上がっていく。

男たちも、役人も、攻撃することを忘れて見入っている。

その後もどんどん速度は上がっていき、ついには目視できない早さになった。




不意に、風が吹いた。




「まさか………剣を振って風を起こしているのか!?」

役人が上ずった声でつぶやいた。

風は勢いを増し、立っているのも困難なほどになった。

「ウソだろ……!?」

「ヤバいぞ……!?」

断はすっと身を低くした。

「風よ、巨悪を引き裂く斬撃と為れ—」

次の瞬間、断の姿は掻き消えた。

「………!?」

刹那、一陣の暴風が吹き荒れた。

『うわああああああああああああああ!!』

男たちは1人残らず吹き飛ばされた。

「一刀流—『荒乱死』(あらし)」

風がおさまると、立っていたのは役人1人だった。

役人は、口をあけてその場から動かない。

断がゆっくりと近づくと、初めてあせりだした。

「ま、待ってくれ!! 待て!! 話し合おう!!」

断は男の眼の前で歩みを止めた。

「お前は人に裏切られたことがあるか?」

「……え?」

「全てをかけ、何かを守ろうとしたことがあるか?」

「…………」

役人は押し黙った。

「お前にはわからないんだろう、な」

断は刀を振り上げた。

「ま、待って—」

断は言葉の続きを待つことなく、刀を振り下ろした。






「斬り捨て、御免」