ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 処刑人斬谷断 第10話更新!! ( No.30 )
日時: 2011/01/01 16:36
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: q7/5/h0o)

第11話 「人であること」

『……ここで速報が入ってきました。国会議員速水宗助さんの秘書、角谷平太さんが、尾瀬港12番倉庫で遺体で発見されました。角谷さんの他にも多数のスーツの男の遺体が発見され、警察は大量殺人事件とみて捜査を開始しました……』

そんなニュースが世間を騒がせているころ、断は再び西園寺邸を訪れた。

西園寺真冬を連れて、である。

西園寺真冬は角谷が乗ってきた車に乗せられており、断が無事救出した。

「本当に、何とお礼を言えばよいのやら……」

由蔵は断にひたすら頭を下げ続けた。

「いや、俺は俺なりに動いただけだから」

断はそっけなく返した。

「改めて、謝らせてほしい。娘のことでいろいろと苦労をかけた」

「俺に謝る必要はない。謝るなら、娘さんと、楠田に謝るんだな」

断はそれだけ言うと、由蔵に背を向け、帰りかけたのだが、

「−そういえば、これを渡すの忘れてた」

不意に立ち止り、由蔵に1枚の小切手を渡した。

「これは……?」

小切手には、由蔵が必死になって集めた金額と同じ、1億5000万円と記されていた。

「……やり方が間違っていたとはいえ、あんたは大事なものを守ろうとした。誰よりも、人らしく。それに免じて、今回の狂言誘拐は見逃してやるよ」

「………!!」

由蔵の眼に涙が浮かんだ。

「必ず会社を立て直して、あんたの守りたかったもの、全て守り抜け。それが条件だ」

由蔵は涙を流し、何度もうなずいた。

断は由蔵の肩をポンと叩くと、その場から静かに立ち去った。











西園寺邸の門のところで、今回の最初の依頼人、楠田悠斗が断を待っていた。

「……よう」

楠田は断をみると、小さく手を挙げた。

「よう。彼女とは再会できたのか?」

「ああ、さっき。………ありがとう、真冬を助けてくれて」

楠田は頭を下げた。

「俺は俺なりにやりたいことをやった。ついでだから気にしないでくれ」

「やりたいこと…?」

楠田は首をかしげた。

「お前は知らなくていい。多分、そのほうが幸せに生きていられる」

「……?」

楠田はますます不思議そうな顔をしている。

「お前とは、もう会うことはないだろうな。しっかりやれよ」

断は無理やり話を終わらせ、手を振りながらゆっくりと歩き出した。

「……本当にありがとう! 俺あんたのこと忘れないから!!」

断は振り向き、小さく笑った。

そして、また歩き出し、2度と振り返ることはなかった。








「………さあ、吐きなさい。あなたは誰に命令されて作戦を行ったの?」

薬師寺が、注射器を片手に男を尋問していた。

「さっさと言っちゃったほうがいいよ。命の自白剤キツイから」

椅子に座りながら夢見が諭すように言った。

2人は尋問しているのは、ほかでもない警視庁警視監、万屋寛治だった。

「………頼む、やめてくれ。金ならほしいだけやる。私は何も知らないんだ」

万屋は小さく呻いた。

「残念。私金には興味ないの。知りたいことは今聞いたこと。分からないようだから、また教えてあげるわ!」

薬師寺は特製の自白剤をさらに注射器で男に注射した。

すると、万屋は痙攣し始めた。

「さあ、吐きなさい! 吐けば全部終わりよ!!」

「………やめろおおおおおおおおお!!」

「名前を言いなさい!!」

「…分かった、言う!! 命令したのは『アダム』と呼ばれる男だ!」

「……本名は?」

「知らない。奴の正体は誰も知らない。分かっているのは日本政府に協力しているってことだけだ。本当にそれ以上は知らないんだ!!」

万屋は一気にまくしたてた。

「夢見ちゃん、発見機は?」

夢見は嘘発見器の反応を確認した。

「本当のこと言ってる。それ以上は本当に知らないみたい」

「いいわ」

薬師寺は注射器をしまった。

「行きましょ、これ以上は時間の無駄だから」

「はいよっ」

夢見は椅子から飛び降り、薬師寺のあとについて行った。

「待ってくれ! 私はどうなるんだ!?」

万屋が叫んだ。

「まあ、後で警察呼んどいてあげるわ。死にはしないでしょ」

薬師寺は軽く返し、そのまま部屋から出て行った。





その数時間後

万屋のもとに、黒い服を着た男が入ってきた。

「万屋寛治様。あなたを秘密漏洩(ろうえい)の罪により、この場で処刑させていただきます」

男は銃を向けた。

「や…やめ…」

次の瞬間、乾いた銃声が響き、万屋は処刑された。









「……というわけね。特に有力な情報でもないけど、まずは一歩前進したってとこかしら」

薬師寺からの報告を聞き、断は両腕を組んだ。

「『アダム』か。当面はそいつを探るしかないな」

「それより、そっちのほうはどうだったの?」

夢見が紀伊をチラリと見ながら尋ねた。

「ああ、特に問題はなかった。いつも通り—」

「断が悪い奴を懲らしめてハッピーエンド」

続きを紀伊がつまらなそうに言った。

夢見は紀伊をジロジロ見て、「ふーん?」と言った。

「……何だチビ」

「誰がチビよ! 嘘つきヘタレ野郎!!」

「………誰がヘタレだって? 腹ばっかり成長を続ける哀れな夢見さんよ」

「お腹は、あんたに関係ないでしょうが……!!」

夢見はどこからか愛用の大剣を振りかざした。

「……紀伊くん、あなたって人は…なんてデリカシーがないの。もっとオブラートを有効活用しなさいよ。そういう時は太ってるって言うのよ」

「命〜? 今のもう1回言ってくれる?」

夢見は不自然な笑顔で薬師寺のほうを向いた。

「……あら、ヤバいとこ突いちゃったかしら」

「命。お前もデリカシーないぞ」

紀伊が笑いをこらえながら言った。

「2人ともよ!! もういいわ、私の気のすむまでスライスしてあげるわッ!!」

夢見は完全にキレてしまった。

「ウソだろ……断、止めてくれ!!」

(……また始まったよ)

断は深いため息をつき、毎度繰り広げられる醜い争いの仲裁をしようと腰を上げたのだった。