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Re: 処刑人斬谷断 第11話更新!! ( No.32 )
日時: 2011/01/05 14:54
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第12話 「探してください」

暗い夜道を、男が走っている。

男はえらく焦っており、スーツはシワだらけで、かけているメガネも半分ずれている。

「だっ……誰か…助けてくれっ…!!」

男はそう叫びながら、何かを恐れながら走っている。

男は公衆トイレを見つけ、慌てて入っていった。

扉に鍵をかけ、呼吸を整える。

「はあ……はあ……はあ…何者なんだあいつは…」

男が小さくつぶやいた瞬間。

鍵をかけたはずの扉が開いた。

「………!!」

男は恐怖に目を見開いた。

扉の前にいたのは、真っ黒なコートに身を包んだ謎の人物だった。

さらに、帽子を目深にかぶり、サングラスとマスクもしているため、男か女かも分からない。

「お前は、この子を覚えているか?」

透き通るような高い声。

謎の人物は女だった。

コートの女は、写真を男の前にかざした。

男は写真を見ると、みるみるうちに顔から血の気がうせていった。

「ま、まさか…………」

「忘れられないだろうな。私はこの子の姉だ」

コートの女は淡々と話した。

「バカな………!! 牧野恵子の姉は…」

「恵子と一緒に死んだはず? 残念ながら、その情報は正しくないね」

コートの女はすっと隠し持っていた銃を上げた。

「ひっ………やめろ、やめてくれ!!」

男はわずかに後ずさりした。

「恵子も、やめてくれと言った。やめてくれと言ったんだっ…!!」

女の声に激情がこもった。

「た、頼む…」

「死ねつ!!」

女は弾が切れるまで引き金を引いた。

男の体には弾の数と同じだけ穴が開いた。

女はしばらくそれを見つめた後、ポケットから紙を取り出した。

紙には6人の男の写真が印刷されており、すでに2つの写真に赤くバツマークがついている。

女はたった今殺した男の写真に、バツマークをつけた。

「もう少し……もう少しだからね…」

女は紙をポケットにしまうと、その場から立ち去った。











斬谷断は簡単に朝食を済ませると、必ずニュースを見る。

特に理由があるわけでもない。ただ、小さい頃からの習慣だっただけだ。

「ニュースってさ、面白いわけ?」

ある日、いつもどおり断がニュースを見ていると、夢見黒夢が突然話しかけてきた。

「別に面白いから見ているわけじゃない。こうしていれば、今の世の中ってやつが分かるんだよ」

「ふーん………私はのんびり遊んでいるほうが楽しいと思うけどなー」

夢見はつまらなそうに言った。

こういう一面のせいなのか、夢見は世情には疎い。

「お前も23歳だろ? そろそろ大人にならなきゃいけないんじゃないのか?」

断が苦笑いしながら言った。

言いながら、夢見と初めて会った1年前のことを思い出していた。

断が出会った当初、夢見は政府施設をたった1人で襲撃しようとしていた。

その施設は、環境開発研究センターと名がつけられていたが、実際は政府のある閣僚が裏金を隠すために作った隠れ蓑だった。

それを知った夢見は許せないと激怒したのだ。

しかし、絶対に実体が表に出てはまずい施設であることから、警備が非常に厳重だったため、1人でいくのはあまりにも無謀だった。

ところが夢見は何を考えたのか、昼間から堂々と侵入しようとしたところを、たまたま同じ施設を襲撃しようと考え、下見に来ていた断が見つけ、見るに見かねて声をかけたのだった。

夢見は断の説得によって襲撃を中断し、断と協力する事になった。

襲撃は断の綿密な計画の下、見事に成功し、以来夢見は断の仲間になったのだった。

「何ていうかさー…頭を使うのって無理なんだよね。断は頭もいいからいいけど、私バカだからさー」

夢見は開き直った調子で言った。

「世情はバカでも理解できるよ」

断はあきれたように言い、コーヒーを入れようと腰を上げたとき。

玄関のチャイムの音が鳴った。

断は肩をすくめると

「薬師寺にお茶用意させてくれ」

コーヒーを諦め、玄関に向かった。

「はい、どちら様ですか?」

断がドアを開けると、そこにいたのは小学生ぐらいの少年と、幼稚園ぐらいの少女が手をつないで立っていた。

2人はじっと断を見つめている。

「えーっと…どうしたのかな? 迷子?」

困惑しながら断が話しかけると、少年が口を開いた。

「お母さんを探して欲しいんです」












断はとりあえず2人を応接室に通した。

少年は牧野宏隆(まきの ひろたか)、少女は牧野智恵美(まきの ちえみ)と名乗った。

「お母さんを探して欲しいんだったね…お母さんは何をしているのかな?」

断は優しく話しかけた。

「お母さんは……スーパーのレジの人やってます」

宏隆が答えた。

「そっか……お母さんがいなくなったのはいつ?」

「3日ぐらい前。手紙置いてどこかに行っちゃったんです」

宏隆は小さく折りたたんだ手紙を断に渡した。

「読んでもいいかな?」

宏隆がうなずいたので、断は手紙を広げた。

そこには、こう書いてあった。

『宏隆と智恵美へ

お母さんは、しばらく家には帰りません。

おばさんの敵討ちしに行って来ます。

私がいない間は、おじさんが家に来てくれます。

おじさんに迷惑かけないように、宿題はちゃんとやって、夜は早く寝てください。

いつ会えるか分からないけど、必ず戻ってくるから、いい子にして待っててね。


                       お母さんより  』

「お母さんどこ……? 寂しいよ…」

智恵美が泣き出してしまった。

断は手紙を静かに折りたたむと、2人の目を見据えて言った。








「大丈夫、お母さんはきっと俺が見つけるから」