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Re: 処刑人斬谷断 第12話更新!! ( No.33 )
日時: 2011/01/08 14:40
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第13話 「恨みと憎しみ」

一旦、依頼人の2人は応接室で待たせ、断たちは隣の部屋で依頼について話し合った。

「で、今回も人探し……ってわけね」

薬師寺が例によって怪しい色の薬品が入ったビンを片手につぶやいた。

「今回も2人ずつに分かれる。片方は捜索、もう片方は依頼人の警護だ」

断が助手達を見回しながら言った。

「で…………今回は特に分け方は決めてない。誰がどうするか決めよう」

「依頼人の警護って、要はお守りだろ? 俺はそっちをやる」

紀伊が真っ先に手を上げた。

「どうせ探すのがめんどくさいだけでしょ?」

夢見がピシャリと言った。

「まあ、何でもいいけど……紀伊、警護はできるのか?」

他の助手達にも言えることだが、断は紀伊についてあまり多くのことを知らない。しかし、彼が子供の扱いが上手なようにはとても見えなかった。

「こう見えても、元保育士なんでな」

「嘘でしょ? あんたが?」

夢見は目を見開いた。とても驚いている証拠だ。

「分かった。じゃ警護はお前に任せる…もう1人だが」

「このチビ以外にしてくれ」

紀伊がすかさず言った。

「誰がチビよ!! あんたなんかこっちからお断りだっつーの!! 断、私と一緒に捜索よ!」

「あ、ああ……」

断は夢見の異様な迫力に押し負け、首を縦に振った。

「じゃ、私は紀伊君と警護ね」

薬師寺は薬品片手に応接室に向かっていった。すぐに紀伊も続いて部屋を出て行った。

「じゃ、俺達も行くか」

「うん」

残った2人は上着を羽織り、外に出て行った。











牧野泰子(まきのやすこ)は落ち着いている。

彼女の妹、牧野恵子(まきのけいこ)の命を奪った6人の内の1人が目の前にいても。

全ての始まりは4年前。

まだ泰子と恵子が同居していた頃だった。

泰子の夫が交通事故で他界し、精神的に病んでいる状態の泰子を心配した恵子が家事手伝いのような形でやってきたのだった。

しかし、1年ほどたつと、泰子が完全に立ち直り、また恵子が1人暮らしに戻ることになった。

ある日、恵子は部屋を探しに不動産屋に出かけた。

運よく条件に合った部屋は見つかり、恵子は即座に借りることにした。

ところが、その帰り道、恵子はあるものを目撃してしまう。

それは、スーツを着た6人の男達が、1人の老人をリンチしている現場だった。

恵子は怖くなって慌てて逃げ出したが、6人の男達は恵子を追いかけ、口を封じようとした。

ところが、恵子は泰子のアパートにたどり着き、その日は事なきを得た。

悲劇は、その3日後だった。

家から出たくないと怯える恵子を家に残し、泰子は子供2人を連れて買い物に出かけた。

1時間ほどで戻ってきたのだが、その時泰子は衝撃の光景を目撃する。

アパートが燃えていたのだ。

泰子の部屋も含め、建物丸ごと全焼するすさまじい火事だった。

この中に、まさか妹が—

泰子の悪い予感は当たり、恵子は焼死体で発見された。

警察の捜査の結果、放火であるらしいということは分かったが、それ以外の手がかりはなかった。

泰子はどうすることもできず、ただ後悔と自責の念に苦しみ続けた。

それでも、2人の子供の為、決して悲しみを表に出さず、ひたすら家事と仕事に勤しんだ。

めまぐるしい日々は続き、いつしか4年の月日がたっていた。

そこへ、ある男が泰子を訪ねてきた。









ある日、泰子は休日を子供と家で過ごしていると、玄関をノックする音が聞えた。

「はーい」

泰子が宅急便かなと、印鑑を持って扉を開けた。

ところが、そこにいたのは派手な装飾がついた仮面をつけた男だった。

口元は微笑った(わらった)まま「こんにちは」と妙に人をひきつける声で言った。

「えっと……どなたですか?」

「私は………そうですね、『アダム』と呼んでください」

「はい?」

泰子はイタズラだと思い、扉を閉めようとした。

仮面の男は扉が閉まる直前にこう言った。

「妹さんの件でお話があります」

泰子は閉めかけた扉を開いた。

「恵子の件って、何ですか?」

「あなたの妹さんは、火事で亡くなられた。そうですね?」

「そうですけど……」

「そしてその火事は、故意に起こされたものだった、これも事実ですね?」

「あの…だからどうしたんですか? ひょっとして警察の方?」

仮面の男は首を横に振った。

「私は警察ではありません。ただ、あなたに警察が知りえなかった情報を教えようと思いまして」

「えっ………?」

泰子は思わず玄関から外に出た。

「どういうことですか? 警察が知りえなかった情報って…」

「これです」

仮面の男は、大きい封筒を泰子に渡した。

泰子はその場で封筒を開けた。

中には、6人の男の写真と名前、そして現在の住所と職業が明確に記された紙が入っていた。

「これは………?」

「その6人の男こそ、妹さんを殺した犯人です」

「この人たちが恵子を……!? でも、何で? この人たち、全然見覚えないし……」

仮面の男は懐からさらにもう1つの封筒を渡した。

「この封筒の中には、何故妹さんを殺したのか、妹さんを殺した証拠、そして私からの贈り物が入っています」

泰子は恐る恐る封筒を受け取った。

「でも、何であなたがこんなものを—」

泰子が顔を上げたとき、すでに男の姿はなかった。

あたりを見渡したが、どこにも姿がない。

泰子は再び封筒を見つめた。

震える手で、封筒を開ける。

するとそこには、先程の6人の男達が、老人に暴行を加えている写真と、それを目撃している恵子の写真。

そして、アパートにポリタンクを持って入っていく男達の写真が入っていた。

泰子は封筒のそこに、硬いものが入っていることに気付いた。

取り出してみると、サイレンサーつきの拳銃だった。

泰子が興奮した面持ちで拳銃を見つめると、封筒から小さな紙が落ちてきた。

泰子は紙を拾い上げ、読んでみると

『それをどう使うかは、あなたの自由です。このまま黙っているもよし、証拠を警察に持っていくもよし、そして—』



最後の一言が、泰子の心を揺り動かした

『この男達に復讐するもよしです』