ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 処刑人斬谷断 第13話更新!! ( No.34 )
- 日時: 2011/01/11 21:20
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
第14話 「アダム」
「探すって言っても……手がかりは少ないよね」
夢見が新聞を片手に言った。
「確かに……けど、この事件が関わっていることは間違いない。何かあるはずだ…見えない何かが」
断は小さなアパートを見つめる。
このアパートこそ、依頼人の2人の叔母である牧野恵子が焼死した場所だった。
「警察が調べた結果は放火……でも、肝心の犯人が誰なのか分からない。でも、泰子は真相を知っている…なんでだと思う、断?」
「警察でも調べられなかった犯人を、一般の主婦が正体を突き止めるとは考えにくい。とすると……情報提供者がいたはずだ」
「情報提供者?」
「ああ。それもかなりの凄腕だ。おそらく名前と顔だけじゃない、住所や今の勤め先まで調べ上げたはずだ」
淡々と断は自らの推理を披露していく。
「何でそんなことが言えるの?」
「でなけりゃ、敵討ちなんてできないだろ。何にしても、鍵となるのはその情報提供者が誰なのか、そして目的は何なのか。2人の話によると泰子は毎日夜遅くまで仕事をしているから、探偵に相談する時間はなかったはずだ。なら情報提供者は頼まれてもいないのに泰子に妹の敵の情報を与えたということになる」
「確かにそれって……おかしいよね。でもそんなことして情報提供者に何の得があるんだろう……?」
「さあな。これから調べてみようじゃないか」
断と夢見はアパートの管理人室に向かって歩いていった。
「くくく……あの隻眼の探偵、なかなかするどいじゃないか…」
派手な仮面をかぶった男『アダム』はアパートの向かいのレストランから断と夢見の様子を伺っていた。
「斬谷断………やはり、あの時確実に殺しておくべきだったか…いや、彼が生きているからこそ、これからが面白い」
アダムはテーブルの上に置いた断の資料に目を戻した。
「頭脳明晰、行動力抜群…おまけに剣技は神の領域、とんでもない男を敵に回したな、政府は」
再び忍び笑いをもらす。
それを周りのウエイターや、客が気味悪そうに見つめている。
「おや、少々目立ちすぎたかな」
アダムは財布から伝票の額と同じだけ金を出し、テーブルに置いた。
「ではみなさん、良い夢を」
アダムが指を鳴らした瞬間、レストランの中にいた全員が突然床に倒れた。
「相変わらず、この催眠ガスは良く効きますねぇ……さて、斬谷君にあいさつでもしましょうか」
アダムはネクタイの位置を直すと、レストランを後にした。
「悪いけど、事件のときの管理人は亡くなってねえ。事件の事は何も知らないんだ」
50代と思われる女性の管理人がタバコをふかしながら言った。
「そうですか……では、当時ここに住んでいた方は今は…?」
「いや、いないよ。何しろあんなことがあったアパートだからね。みんなビビッて逃げちまったのさ」
管理人はため息をついた。
「今いるのは、夜な夜なバイクを乗り回すイカレた若者ばっかりさ。まったく困ったもんだよ」
「それはひどいですよ! 何で追い出さないんですか!?」
夢見が身を乗り出した。
「イカレてるとはいえ、一応こっちにも生活があるからねえ…連中家賃だけはしっかり払うからさ…」
「………そうですか」
夢見は不機嫌全開の顔で引き下がった。
夢見は兵器で人に迷惑かけるような人間が大嫌いだった。
特にやくざや、暴走族などを憎んでいると言っても良いぐらい毛嫌いしている。
断は夢見の気持ちが分からないでもなかったが、場所が場所なのでいったん帰ることにした。
「ありがとうございました。今日はこれで失礼します」
断は一礼して、夢見と管理人室を去っていった。
「収穫なしか…」
「いや、収穫ありだよ。あのバカどもをぶっとばす」
どうやら夢見はアパートに住んでいるチンピラのことを言っているらしい。
断は慌てて止めに入った。
夢見が本気でやれば、チンピラなど数秒で病院行きは堅い。
「話聞いてなかったのか!? 連中がいなくなったら管理人が困るんだって!!」
「むー………断がそう言うなら」
夢見は落ち着きを取り戻し、恨めしそうにアパートを見つめた。
「とにかく、最近のニュースを調べてみよう。殺人を中心に。何か分かるかもしれない」
「そんなことする必要はありませんよ」
不意に、断の後ろから声が聞えてきた。
「……あんたは?」
断は男を睨んだ。
「私はアダム。君の言うところの……情報提供者だ」
「アダム、だと……?」
数週間前に夢見と薬師寺が調べ上げ、その存在が明らかになった謎の人物もアダムという名前だった。
(これが偶然か……?)
断は警戒心を強めた。
「そう怖い顔をしないでくれたまえ。今日は君たちにとって有意義な情報を渡しに来たんだ」
「情報だと?」
断が鋭い声で言った。
「君たちは牧野泰子を探している。違うかな?」
夢見は目を見開いた。
「何故あんたがそれを……?」
「なら、これが役に立つだろう」
アダムは断の話を無視して、封筒を放り投げてきた。
「これは?」
「自分の目で見たまえ。それを見れば、頭のいい君ならすぐに真相が見えてくるだろう」
断は封筒をあけ、中を見た。
夢見も横から中身を覗く。
中から出してみると、それは写真だった。
6人の男達の写真。そして、男達がポリタンクを持って例のアパートに入っていく写真。
「…………まさか。あんたどうやってこれを—」
断が顔を上げたとき、アダムはすでに消えていた。
「断、どうかした?」
夢見が心配そうに断の顔を覗き込んだ。
「まずい………」
「え?」
断は夢見の方を向いた。
「彼女を止めないと。今すぐに」