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Re: 処刑人斬谷断 第14話更新!! ( No.37 )
日時: 2011/01/15 22:31
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第15話 「生き方」

人ごみを掻き分け、断と夢見はとある場所へ向かっていた。

「くそっ…………急がないと」

断は布で覆った童子切を、夢見は特注のケースに入った大剣「爆砕」を持っている。

いざというときの為だが、使うのはもちろん最終手段だ。

「断、急にどうしたの? いきなり事務所に戻ったと思ったらすぐに出て……」

「封筒の中身ちゃんと見たか?」

「え?………ああ、写真でしょ?」

「それだけじゃない。こいつもアダムからの重要なヒントだ」

断は走りながら一枚の紙を夢見に渡した。

「これは………どういう意味?」

夢見はわけの分からないといった表情だ。

「泰子の妹の恵子にとっての特別な日を時系列に並べたものだ」

「それが、どうかした?」

「いいか、これはな………」









話は断がアダムから封筒を受け取った直後に遡る。

「まずい……彼女を止めないと、今すぐに」

断は急に走り出した。

「え? 断、ちょっと…!?」

夢見は慌てて後を追った。

断は走りながら、仮説を立てた。

(こいつは………間違いなく復讐の謎を解くヒント。何を示すヒントだ? 動機はすでに分かってる。とすれば……)

断はもう一度紙を見た。

そして、あることに気付いた。

「………そうか。これなら…」

断は走るスピードを速めた。

「ちょっと断!? どうしたのってば〜!!」

断は信号を全部無視して、車の確認もせずに走りに走った結果、驚異的な速さで事務所まで戻ることが出来た。

事務所の扉を乱暴に押し開け、玄関まで来た薬師寺と紀伊、そして依頼人の宏隆と智恵美にも目をくれず、応接室に入った。

「お、おい断…どうした?」

紀伊が戸惑った顔をして話しかけた。

「ちょっと静かにしてくれ」

断は新聞を取り、テーブルの上に広げた。

素早く記事に目を通し、次々にめくっていく。

7枚めくったところで、断の目がある記事で止まった。

「これだ…」

「それは……今話題の政府関係者連続殺人事件だろ? 今回の事件と行方不明者と関係があるのか?」

紀伊はこれまでの経緯を全く知らなかった。

新聞に載っている男は、アダムが渡した写真の男と同じ人物だった。

「最初の事件はは8月17日……」

断はその辺にあった赤いボールペンで最初の犠牲者の男の写真にバツマークをつけた。

「次は8月24日、その次は9月13日………」

断は次々と写真にバツマークをつけていく。

「そして最後に、3日前……9月29日」

4人目の男の写真にバツマークをつけた。

「どういうことなんだ?」

紀伊が写真を覗きこむ。

「これは行方不明者の妹の特別なイベントを時系列にまとめたものだ」

断は紙を紀伊に見せた。

「………8月24日、恵子の初デートの日、9月13日、恵子の就職が決まった日、そして、9月29日、恵子が1人暮らしを決意した日……これってもしかして…」

紀伊は顔を上げた。

「そうだ。牧野泰子は、恵子の特別な日に復讐をしていたんだ」

「え? 復讐?」

「説明しているヒマは無い。けど…一番下を見てくれ」

「下? ………あっ!」

紀伊は目を見開いた。

「10月2日…恵子の誕生日、そして恵子が殺された日……10月2日って…」

「今日だ。今日、牧野泰子は残る2人に復讐するつもりなんだ」












「そっか……妹の特別な日に殺すことによって、無念を晴らそうとしたんだ…」

夢見は暗い表情でつぶやいた。

「おそらくはな。間に合うといいけど」

「間に合わせなきゃ、絶対に…」

夢見はいつになく厳しい表情で言った。

(夢見……)

断は夢見の表情に、かつて彼女自身が話した過去を重ねた。



《復讐なんて、絶対ダメだよ……》



夢見が、普段見せるの事のない表情で寂しく言った言葉。

断は、あの時の夢見を本当の夢見だと思っていた。

何としてでも、牧野泰子を止める。

今、夢見の頭の中にはそれしかないだろう。

断は、そんな夢見の「生き方」をも守ろうとしていた。

(そうだ……止める、絶対に)

断は改めて決意して、さらに走るスピードを上げた。











牧野泰子は、国会議員の平坂利保の豪邸に忍び込んだ。

厳重なセキュリティで守られていたが、泰子は難なく突破した。

一時的にレーダーを無効化する装置をアダムから貰ったからだ。

平坂もさすがに今の状況を分かっているらしく、警備員の数を増やしていた。

だが、泰子にとっては好都合だ。

部屋の間取り、警備員の配置、果ては裏のかき方まで伝授された泰子にとって、警備員の増員は平坂の油断をつくチャンスでしかなかった。

順調に死角を通り、数分で平坂のいる部屋にたどり着いた。

平坂は極端に疑い深い性格で、自分のいる部屋には誰も入らせないどころか、半径300メートル以内にはだれも近づけない。

だがそれが逆に命取りになるとは、想像だにもしていないだろう。

泰子はほくそ笑んだ。

事前に用意していた特殊なピッキング用具を使い、素早く鍵を開けた。

扉を開け、入ると同時に閉めた。

「ひっ………!!」

平坂は侵入者に恐れをなした。

「久しぶり、平坂利保」

泰子はサングラスを外し、恵子の写真を平坂に見せた。

「なっ………貴様、やはり…!!」

「そう、私は牧野泰子…あんた達が殺した子の姉だよ」

泰子はニヤリと笑い。銃を平坂に向けた。

「ま、待ってくれ……!!」

「あんた、今日の日を覚えてる?」

泰子は銃を平坂に突きつけた。

「きょ、今日………さあ?」

平坂が答えたとたん、泰子は銃で思い切り殴り飛ばした。

「ぎゃっ!!」

平坂は痛みでのた打ち回っている。

「覚えてないだと!? ふざけるな!! 恵子は4年前の今日、あんたらに殺されたんだよッ!」

泰子は引き金に手をかけた。

だが、引こうとしたその時、扉の外から何かが聞えた。

「おい、待て!! それ以上進むと撃つぞ!!」

「うるせーっ!!」

警備員と思われる男の声と、かなり高い女の声。

「な、何なの……?」

泰子が思わず身構える。

そこへ。

「ちょっと待ったあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」







大音声とともに、夢見黒夢が突っ込んできた。