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Re: 処刑人斬谷断 第15話更新!! 参照300突破 ( No.39 )
日時: 2011/01/25 20:40
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第16話 「憎しみの果て」

「な、何なのよ…!?」

泰子は呆然と、侵入者—夢見黒夢を見つめた。

「あなたを止めに来た……もう復讐なんてやめて」

夢見は常になく厳しい表情で言った。

「ふ、ふざけないでっ!! あなたに私の何が分かるの!?」

泰子は大声を上げてわめいた。

その鬼気迫る表情ににじみ出ているどうしようもない怒りと憎しみ。

夢見はそれを感じ取った。

「私には……あなたの気持ちは分からない。でも、これだけは言える。あなたはまだ引き返せる。だから、こんなこと…」

「もう引き返せない! それに引き返す気もない!! あと2人、こいつと、あと1人で恵子の無念が晴らせるの!!」

泰子の横で恐怖に怯えている、平坂の顔を一瞬見て、夢見は再び口を開いた。

「本当にそんなことして、恵子さんが喜ぶと思う!? 笑ってくれると思う!? あなたが両手を血で汚して、喜ぶ誰かがいると思う!?」

「………!!」

一瞬、泰子の顔がくしゃくしゃに歪む。

だが、すぐに叫んだ。

「でも、でもっ…………私はっ…私はそれでも、恵子の無念を晴らすっ……!」

自分がどうなっても構わない。ただ復讐を遂げんがために暴走を続ける泰子の顔に、夢見は「過去」の自分を見た。

「………気付かないの!? あなたの命はあなただけのものじゃない!! あなたには、守るべきものがあるでしょっ!?」

夢見はあらん限りの大声で叫んだ。

目の前で、闇の中に苦しむ1人の女を助けるために。

明らかに、泰子はためらいを見せていた。

「私は………私は…っ!」

銃を持つ手が震える。

「お願い、もうこんなことやめて……! 私が、話を聞くから…全力で支えるからっ……!!」

夢見は両目に涙を浮かべ、必死に訴える。

泰子はゆっくりと首を動かし、平坂を見た。

その瞬間、なぜか泰子は憎しみの心が崩れ去っていくのを感じた。

私は、大切なものを失いかけている………?

泰子は気付いた。

自分がいかに愚かな真似をしようとしているのか。

自分が本当にしなければならない事は何なのか。

「そっか…………そうなんだね…」

不意に、泰子の頬に涙がつたった。

「私は、答えが欲しかった……この憎しみは、この怒りはどうすればいいのか。復讐することが、答えじゃないんだね……」

泰子はすっと銃を降ろした。

「良かった………間に合って」

夢見はその場にぺたんとしゃがみこんだ。

が、その瞬間、今まで震えていた平坂が、突然立ち上がり、泰子の手から銃を奪い取った。

「………!!」

泰子の顔に怯えが走った。

「しまっ……」

夢見は大剣を抜こうとした。

だが、夢見の頭は無情にも告げていた。

—ダメだ、間に合わない……!!

(そんな………せっかく気付いてくれたのに……!)

「ははははははは!! 最後の最後で油断したな! 死ねや!!」

平坂は引き金に指をかけた。

「やめてーーーーーーーーーーーーーっ!!」

夢見の絶叫が響き渡る。

そして、銃声がとどろいた。

「いやっ……!!」

夢見はとっさに目をつぶった。





「…………何!?」





平坂が、驚きの声を上げた。

夢見はおそるおそる目を開ける。

みるみるうちに、顔に歓喜の色が浮かんだ。





「遅れたな。すまない、夢見」





平坂と泰子の間に割って入り、銃弾を防いだのは、斬谷断だった。

「バカな………!! この距離で銃弾を、刀で防いだ、だと……!? いや、そもそもお前どこから……!!」

平坂は唖然としている。

「断…………遅すぎだよっ!! バカ〜!!」

夢見は泣きながらわめいた。

「悪かったな。でもいきなりどっかに消えることないだろ」

断は苦笑した。

「き、貴様…………何者だ!?」

平坂が銃を構えたまま叫んだ。

断は視線を平坂に戻した。

「ああ、俺………? そうだな、強いて言うなら……処刑人で、探偵だ」

「な、何を—」

「平坂さん、あんたには訳あって死んでもらうことにした」

断は素早く言葉をつなげた。

「何だと……!? ふふふふ、やってみろ。50人の警備が黙ってはいないぞ!!」

平坂は甲高い声で笑った。

「50人の警備って………あれのことか?」

断は部屋の外に顔を向けた。

平坂も釣られて部屋の外を見た。

「なっ………!!」

警備員は1人残らず床に倒れていた。

しばらくすると、廊下の角から薬師寺と紀伊が姿を現した。

「こっちは片付いたぜ、断」

「私の特製忘却薬で、起きたら全員この1時間の記憶は吹っ飛んでるわよ」

2人はVサインを作った。

「と、いうことらしいが……?」

断はニヤリと笑った。

平坂は口をパクパクさせ、何かを言おうとしたが、あまりの衝撃に声も出なかった。

やがて、銃を床に捨て、地面を頭にこすりつけた。

「たっ……助けてくれ、何でもするから…!!」

断は冷ややかな目で平坂を見下ろした。

「じゃあ、牧野恵子を生き返らせろ」

氷のようにつめたい声で言った。

「そ、そんなこと………」

「できるわけない、よな………この世にあるもので、絶対に取り返しがつかないのが命なんだ。それを、あんたは自分の身を守るために簡単に消し去った」

「い、いや、それは……政府の為に…」

平坂はこの期に及んでもまだ言い訳を続けていた。

「政府の為? ……そんな腐った真似が政府の為になるなら……この俺が、そんなもの潰してやるよ」

断はゆっくりと刀を抜いた。

「ま、待てっ………!!」

平坂は後ずさりをし始めた。

「お前の罪、俺が審判を下す—」

断は一歩踏み出すと、ためらうことなく刀を振り下ろした。







「斬り捨て、御免」