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- Re: 処刑人斬谷断 第16話更新!! 参照300突破 ( No.40 )
- 日時: 2011/01/26 21:11
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
第17話 「守るべきもの」
『続いてのニュースです。国会議員の平坂利保さんが自宅で死んでいるのが発見されました。平坂さんは日本刀のようなもので斬殺されており、今のところ犯人の痕跡や目撃情報などはありません。なお、50人いた平坂さんの家の警備員は全員気絶しており、起きたときには事件当時の記憶がなくなっていたということです—』
断はテレビのスイッチを切り、目の前にいる牧野泰子に眼をやった。
「とまあ、そういうわけだ。あんたがやったことは俺が全てカタをつける。安心してくれ」
「本当に、ありがとうございます…! なんとお礼を言えばよろしいのか……」
「いいんだ。あんたは心の隙に付け込まれただけだ。本当に許せないのは、あんたを復讐に駆り立てた男だから、気にするな」
そう言うと、断は立ち上がって、封筒を泰子に渡した。
「これは………?」
泰子が首をかしげる。
「ここでは開けないで、家に帰ってから確認してくれ。きっとあんたと、あんたの子供の助けになるはずだ」
泰子はしばらく断を見つめていたが、やがて深々と頭を下げた。
「本当にありがとうございます……!」
「お礼はもういいから、早く子供連れて家に帰ってやれ。ほとんど寝ないであんたを待ってたらしいぞ」
断は小さく笑うと、応接室の扉を開けた。
扉の奥には、宏隆と智恵美が手をつないで立っていた。
泰子は子供を見て、ゆっくりと立ち上がった。
「帰ろっか、宏隆、智恵美」
「うん!!」
「帰ろ帰ろ!!」
そして泰子は2人の間に入り、手を握った。
「今日は2人の好きなハンバーグにするからね」
「うわあ!! やったあ!」
「ハンバーグだ!! ハンバーグだ!!」
泰子は断を振り返り、小さくお辞儀すると、探偵事務所から去っていった。
その姿が見えなくなると、断は静かに玄関の扉を閉めた。
「はー………今回は俺たちヒマだったなー」
紀伊がミカンの皮をむきながらつぶやいた。
「あら、私にとっては良かったわよ。新作も出来たし」
薬師寺が新作と思われる怪しい色のクスリをうっとりと見つめた。
一体いくつ新作を作れば気がすむのだろうと思いながら、断はふと夢見を見た。
夢見はどことなく元気がない様子で、ため息ばかりついていた。
断はコーヒーカップを持って、夢見の隣に座った。
「ほら、コーヒーだ。砂糖はちゃんと大さじ10杯入れてある」
「ありがと……」
夢見はコーヒーをを少し飲んで、またため息をついた。
「気になるのか」
断は小さく笑った。
「気になるって?」
夢見がそっけなく返した。
「牧野泰子、心配なんだろ? 様子見てやればいいんじゃないか?」
「大丈夫だよ……だって断が全部片つけたんだし」
夢見はむすっとした様子で膝を抱えた。
「………重なったんだろ、自分と」
夢見は断の方を向いた。
「お前、昔言ってたよな。自分のせいで家族がバラバラになっちゃったって」
断は構わず話を続けた。
「それがどうかした?」
「見たいんじゃないか? 自分が守った家族を」
「別に、救ったの私じゃないし」
夢見は顔を膝にうずめた。
「そうか? お前が説得したから、ギリギリのところで泰子は思いとどまったって、俺は思ってたけど?」
「だから、私じゃ……」
夢見はそう言って断の顔をにらんだ。
「行ってこいよ。俺達はここで待ってるから」
「………!!」
夢見の表情が変わる。
「大丈夫、お前が帰る場所はここにあるから。行って来い」
断はそう言って夢見のコートとマフラーを渡した。
「帰ってきたら、晩飯だ。今日はお前が好きなハンバーグだぞ」
夢見はコートとマフラーを受け取ると、いつもどおりの、曇り1つない笑顔を浮かべた。
「バカ。タマネギ入れたらぶっ飛ばすからなっ!!」
夢見は走って廊下の奥に消えた。
「ったく………いつまでたってもガキだな、あいつ」
紀伊が苦笑した。
「ふふっ……でも、あの明るさは私達には必要なのかもね」
薬師寺も外を走っていく夢見を見ながらつぶやいた。
「それにしても—」
不意に、薬師寺は断を見た。
「?」
断はきょとんとした表情を浮かべた。
「待ってるから、ねえ………?」
意地の悪い笑みで薬師寺は言った。
「なっ………なんだ!?」
断はみるみるうちに顔が赤くなった。
「おいおい、マジかよ。顔赤いぞ……」
紀伊がニヤニヤしながら断を冷やかした。
「べっ…別に赤くなってないぞ!」
「えー? 照れてんの?」
「うわー……お兄さん青春だねー?」
「だから、そんなんじゃないって!!」
小さな探偵事務所は、今日も今日とて、やや騒がしい音が響き渡る。