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Re: 処刑人斬谷断 第17話更新!! 参照300突破 ( No.41 )
日時: 2011/01/29 22:55
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第18話 「二酸化炭素と新たな依頼」

斬谷探偵事務所地下室、そこは薬師寺命の研究室になっている。

ここでは夜な夜な怪しい実験と開発が繰り返され、所長である斬谷断ですら立ち入りを禁じられている。

「ふふふ……完成ね。強制性格変更薬『キャラチェン』、早速紀伊君で実験開始しましょう」

そしてまた1つ、例によって怪しげな薬が完成した。

薬師寺はニヤリと笑うと「紀伊く〜ん?」と妙に優しい声で言いながら階段を駆け上っていった。










「やっべー!! マジテンション上がるんですけどーみたいなー! アゲアゲでモリモリっすよー!!」

「………蜻蛉が蜻蛉じゃない」

性格を変更されてしまい、妙に明るくなった紀伊蜻蛉を見て、夢見黒夢は絶句した。

「さすがは私の自信作。見事に性格が変更されてるわね」

薬師寺は満足そうにうなずいた。

「性格変更というより……性格破壊だな、これは」

断が冷静に指摘した。

「確かにそうね。強制人格破壊薬『キャラブレイク』と名を改めましょうか」

薬師寺は『キャラチェン』と書かれたラベルの上にもう1枚ラベルを貼り付け、『キャラブレイク』と書いた。

「ちなみにこれ、どうやって戻すんだ?」

夢見が嬉しそうに「実験結果」を見る薬師寺をじと目で見ながらたずねた。

「ああ、それ考えてなかったわ」

薬師寺はあっさりと言ってのけた。

「は…………?」

夢見の表情が凍りつく。

断の顔も険しくなった。

「おい、薬師寺。紀伊は元に戻るんだよな?」

「さあ? ひょっとしたら一生このままかも」

笑顔でそう言い、再び紀伊の観察を始めた。

その後、渋る薬師寺を説得し、紀伊を元に戻すのに実に12時間を要した。










すっかり夜も更け、日付が変わろうかというところ。

1人の女が、斬谷探偵事務所の前にいた。

「薬師寺先輩………ここにいるかな……?」

女の足取りは重く、今にも倒れそうな様子で、ゆっくりドアに進んでいく。

女の服はボロボロでところどころに傷跡が見える。

ようやくドアまでたどり着き、力を振り絞り、ドアをノックする。

そのまま、ズルズルとドアの脇の壁にズルズルと寄りかかる。

「はい、どちら様ですか?」

ドアの内側から、懐かしい声が聞えた。

「薬師寺先輩…………」

体が思うように動かず、女はそのまましゃがみこんだ。

その時、ドアが開き、中から薬師寺が出てきた。

「え………!? 明菜ちゃん!?」

「やっと会えた……薬師寺先輩…」

明菜と呼ばれた女は、そのまま気を失ってしまった。












「それじゃあ、この人はお前の知り合いなんだな? 薬師寺」

「ええ。坂下明菜、大学時代の後輩よ」

薬師寺は明菜の額にタオルを置きながら答えた。

断たちは明菜を一旦事務所の中に運び込み、回復を待つことにした。

「それにしても、あちこちケガだらけだし…何があったんだろうな」

紀伊がつぶやいた。

「何があったのかはともかく、何らかのトラブルに巻き込まれたのは間違いないな」

断は明菜の顔をじっと見ながら言った。

薬師寺は大きくため息をついた。

「命、どうかした?」

夢見が薬師寺の様子を怪しく思い、顔を覗き込んだ。

「ううん、何でもない………ただ、何でこの子がトラブルに巻き込まれたんだろうって思ってさ…」

薬師寺は力なく笑った。

「そっか………」

夢見は心配そうに薬師寺を見つめた。

これほど思いつめた薬師寺の表情を、3人は見たことがなかった。

示し合わせたわけでもなく、薬師寺を残し、部屋から出て行こうとした。

と、その時。

「う………ん…」

明菜が目を覚ました。

「明菜ちゃん!? 明菜ちゃん!?」

薬師寺が明菜の手を握る。

「あ………薬師寺先輩」

明菜は薬師寺を見ると、ニッコリと笑った。

「どうしたの、何があったの!?」

薬師寺は普段は見せない心配そうな表情で明菜に迫る。

「大学の研究室で、実験してたんです……そしたら、いきなり変な人たちに襲われて…」

「変な人たちって?」

「わかんなかったです……でも、1人だけとても怖い人がいました」

「だ、誰なの?」

薬師寺は身を乗り出した。

「名前は言いませんでした……その人は、派手なマスクを着けてて、とにかく……怖かったです」

明菜はそのときのことを思い出したのか、顔が真っ青になっている。

「派手なマスク……?」

夢見が断を見て、断もうなずいた。

「アダムだな………」

「アダムって?」

アダムのことを知らない紀伊は首をかしげた。

「俺のことを殺しかけた男だ」

断は苦々しい表情でつぶやいた。

「で、でも明菜ちゃん。何で襲われたの……? 心当たりとかない?」

薬師寺がなおも質問を重ねた。

「1つだけ………私達の実験のことです」

「実験って………何をしてたの?」

「ネオCO2爆弾の研究です」

その名前を聞いたとたん、薬師寺の表情が変わった。

「ネオCO2爆弾………政府はまだそんなもの…」

「な、何なのその……えっと」

夢見が遠慮がちに話しに加わった。

「ネオCO2爆弾。特殊加工された二酸化炭素であらゆる生物を窒息死させる兵器よ」

「え? ………なんでそんなものを…」

「昔バカな政治家が北朝鮮やら中国の侵攻に備えるための自衛兵器だとかいう理由で作ったのよ。結局盗まれてテログループに渡ったけどね」

「しかし………二酸化炭素でそう簡単に人を殺せるのか?」

断が眉をひそめた。

「特殊加工するって言ったでしょ。空気の壁を作って対称を囲む二酸化炭素、そして周りの酸素や窒素に反応して爆発的に増殖する二酸化炭素があるの」

「つまり、せまい空間の中に閉じ込め、爆発的に増えた二酸化炭素で中毒を引き起こすわけか」

「そんな兵器があったなんて………」

「……本来なら封印されるべきものだった! でも、殺すって脅されて……怖くなって、作ってしまったんです」

明菜が震える声で言った。

「いいのよ………仕方なかった、気にしなくていいのよ」

薬師寺が明菜を抱きしめた。

「お願いします………兵器は多分持ち去られました! 誰かに使われる前に止めてください……!!」

明菜は泣きながら言った。

「分かった………俺達が止める」

断とその助手達の目に強い光が宿った。