ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 処刑人斬谷断 第18話更新!! 参照300突破 ( No.42 )
- 日時: 2011/02/02 20:24
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
第19話 「危険な化学式」
警視庁—
一通の脅迫状が届いた。
文書の類はなく、また差出人の名前もなかった。
だが、そこには一枚、ネオCO2爆弾の写真があった。
この危険な爆弾の流出先は以前より密かに捜査されていた。
警視庁は事態を重く捉え、極秘に緊急テロ対策チームを組織した。
「写真の背景にあった鏡に東京タワーが映っていたことから、爆弾は東京のどこかに存在するものと思われます。主要な政府施設、皇居などの警備を強化するとともに、爆弾の捜査に当たってください。では、解散」
操作本部長が言うと、刑事達はクモの子を散らすように部屋から出て行った。
警視庁警部、風間健介も資料をまとめ、部屋から出て行こうとした。
「ああ、風間くん」
「本部長?」
急に呼び止められ、風間は怪訝な顔をした。
「君だけに言っておきたい情報がある。実は最近、政府からある男に注意するように連絡が来ているんだ」
「ある男?」
風間は持っていた資料を机の上に置き、本部長と向き合った。
「こいつだ」
本部長は風間に資料を手渡した。
風間はすぐに確認した。
「斬谷……断」
「身元を調べたが、ただの探偵だった。正直政府が何でこの男をマークするように言ったのかは分からないんでな」
「でも最高機密の情報なんですよね? 何故私に?」
「私が信用できるのは君だけだ。ひょっとしたらこの男が何らかの形でテロに関わっているのかもしれない。単独で彼と接触してもらいたい」
風間はしばらく資料に目をやり、やがて顔を上げた。
「分かりました。行きます」
「助かるよ。爆弾の捜査に協力させて、動向をうかがってくれ。必要ならどんな情報でも与えるんだ」
「了解です。では失礼します」
風間は新たな資料とともに部屋から去っていった。
本部長は風間が廊下の奥に消えていくのを確認すると、携帯電話を取り出し、番号をプッシュした。
『どうしましたか?』
「アダム。風間健介を斬谷断のもとに向かわせました」
『そうですか。ふふふ………今から楽しみですよ』
アダムは乾いた笑い声を上げた。
「それにしても、何故風間を斬谷のところに向かわせたんです? 斬谷を消したいんなら私が—」
『本部長。私は斬谷断を消したいわけではありません。ただ彼と、ゲームがしたいだけですよ』
「ゲーム?」
『そう、ゲームですよ。彼が爆弾を見つければ彼の勝ち。爆弾が作動すれば私の勝ち。それだけです』
本部長は心底アダムを恐ろしく思った。が、逆らえる相手ではないことも十分に承知していた。
『それに、気になりませんか?』
「と、いいますと?」
『国家が定めた法で罪人を裁くのも正義、自らの法で罪人を裁くのも正義、相反する2つの正義がぶつかれば、一体どうなるのか? くくくく………ははははははははは!!』
悪魔の忍び笑いは、やがて哄笑へと変わる。
そしてアダムが仕掛けた、負の化学式が作動する。
「止めるっていっても、爆弾がどこか分からないんじゃなー」
夢見が頭をかいた。
「確かに手がかりナシってのはきついな。何か情報があれば…」
紀伊も腕組みをして難しそうな顔をしている。
「薬師寺。何か特定できる情報は無いか?」
断が薬師寺にたずねた。
「爆弾は大型で、バラすと元に戻すのに時間がかかりすぎるから、どこか広い場所に隠されていると思う。けど首都圏なら広くて見つからない場所なんていくらでもある。はっきり言って先手を打つのは無理ね」
「警察は……どうだ?」
紀伊が提案した。
「信じるかどうか怪しいな。仮に信じても動き出すまでの時間がかかる。その前に起爆されたらアウトだ」
断がすかさず反論した。
「じゃあ、どうすれば……」
部屋に、重い雰囲気が流れる。
その時、玄関からノックの音が聞えた。
「新しい依頼人か?」
紀伊があからさまに、こんなタイミングで、といった顔をした。
「俺が断ってくる」
断が立ち上がり、玄関に向かった。
ドアを開けると、スーツ姿の若い男がいた。
「すみません、今別の依頼で……」
「斬谷さん、緊急の要件です。私はこういうものですが」
男は警察手帳を見せた。
手帳には風間健介と書かれていた。
「警部さんが……うちに何か?」
「実は、テロリストと思われる人物から爆弾テロの犯行予告が来まして。あなたに極秘で捜査協力を頼みたいんです」
「テロ捜査に私が?」
断は眉をひそめた。
「あなたは非常に腕のいい探偵だと聞きましてね。警視庁も、まさに猫の手も借りたい状態ですから、あなたのような優秀な探偵が必要なんですよ」
風間はそう言って笑った。
「……そうですか。ではお入り下さい」
断は風間を中に入れた。
絶対何かある。断は心の中でそう確信した。