ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 処刑人斬谷断 第19話更新!! 参照300突破 ( No.43 )
- 日時: 2011/02/06 11:10
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
第20話 「タイムリミット」
「それじゃ……爆弾は東京のどこかにあると?」
「ええ。現在主要な政府施設などに厳戒警備体制をしいています」
突然斬谷探偵事務所にやってきた警視庁警部、風間健介は捜査資料を見せながら言った。
「皇居、国会議事堂、各省庁……造幣所…狙われそうなとこならいくらでもありそうですね」
断は東京の地図を見ながら言った。
薬師寺、夢見、紀伊の3人は少し離れたところから2人のやり取りを見ている。
「確かに、時間も場所も分からないので捜査は難航しています。ただ、犯人は例の写真を送った次の日に、こんなものを送ってきたんです」
風間は内ポケットから一枚の紙を取り出した。
「これは……?」
「これが今回、あなたに協力を要請した理由です」
『やあ、親愛なる探偵、斬谷断。
前回は見事な腕前を見せてもらったよ。
今度は爆弾テロを仕掛けさせてもらった。さて、これを君は止められるかな?
ヒントをあげよう。
天使は堕ちた。
さあ、よく考えてこの私を止めて見せてくれ。
A』
断は手紙に目を通すと、小さくため息をついた。
「やっぱりあの男か…」
「Aと言う男について、何か心当たりはあるんですか?」
風間が身を乗り出した。
「ええ」
「何者ですか?」
「奴の名はアダム。全てが謎に包まれている男です」
「アダム………?」
風間は怪訝そうな顔をした。
「奴については俺もまだよく分かってないんです。それより今は、奴のヒントを解読しないと」
「天使は堕ちた………ですか」
「そうです………これは何を意味しているのか…」
断は再び東京の地図を見た。
「天使が堕ちた場所が、起爆する場所なんでしょうか?」
「今のところはなんとも………風間さん、送られてきた爆弾の写真はありますか?」
「これです」
断は写真を受け取った。
爆弾は大きな球の形をしており、見ただけで不気味な印象を与える。
断は穴が開くほど写真を見つめた。
「爆弾に何か?」
断は無視して観察を続けた。
そして不意に、顔を上げた。
「a fallen angel…」
断は小さくつぶやいた。
「え?」
「ここを見てください……ほら、この爆弾の上の部分」
風間は断が指差したところを見た。そこには、小さな文字で「a fallen angel」と書かれてあった。
「これは………」
「a fallen angel…つまり、堕天使。アダムはこの爆弾こそが滅びをもたらす堕天使と言いたいんでしょう」
「なるほど………」
「問題は場所ですが…………」
「東京の主要施設で、天使もしくは堕天使に関わるキーワードが存在するものを調べます」
風間はそう言って電話をかけ始めた。
断は横目でその様子を見ると、すぐに東京の地図に視線を戻した。
(堕天使は神に逆らい、天から地に落とされた…どこか、上から下に落ちるような建物は無いか…?)
「ねえ、斬谷君……」
遠慮がちに薬師寺が話しかけてきた。
「どうした?」
「あの人風間さんだっけ……何者なの?」
「警視庁警部で、俺に捜査を協力を求めてやってきた………とは言ってるが、嘘だ。目的はもっと別なところにあるはずだ」
「目的…?」
「例えば、あの手紙が来たことで俺が事件と関わってるんじゃないかと疑うことが出来る。俺に近づけば爆弾の場所が分かるかもしれないから、捜査協力の要請を装って近づいてきたとか……な」
「そんなことが……」
「ありえる。相手はアダムだ」
断は地図から目を離した。
「いよいよ奴との真剣勝負が始まるんだ」
「今のところは動きはありません。捜査協力に応じているようです」
『そうか。引き続き頼んだぞ』
「はい………しかし、本部長。私は斬谷はシロだと思いますが」
『そうか……実を言うとな、俺も斬谷は犯人じゃないと思うんだよな……でも、確実な証拠が出ないと…分かるよな?』
「ええ。それでは失礼します」
『頼んだぞ』
携帯をしまい、風間はふうっと息をついた。
(斬谷断……彼は一体…)
風間は疑問を抱きながら、再び探偵事務所に入っていった。
風間が戻ると、断はホワイトボードに何やら書き込んでいた。
「斬谷さん……?」
「堕天使が意味する事…………それは……」
断は風間がいるのに気付かないぐらい猛烈な勢いでホワイトボードにペンを走らせていた。
風間はあえて邪魔せず、書かれた文字を見つめた。
それらの意味を少しでも理解しようとホワイトボードに近づいた瞬間、断の手が止まった。
「そうか………」
「斬谷さん、何か分かりましたか?」
「堕天使は神に逆らう存在、神に逆らうとはすなわち、神を冒涜すること……つまり、信じないこと………」
「それが、どうかしましたか?」
「つまり、神を信じない場所に爆弾は仕掛けられる……」
「神を信じない場所?」
「仏教は神を信じるという考えはありません。仏教で言う神とは、人間と同等の存在……要するに、仏教に関わる場所…寺や神社に爆弾を仕掛けられます」
「す、すぐに確認します!」
風間は電話を取り出し、すぐさま本部に連絡を取った。
「もしもし、私です! 急いで東京中の寺と神社で、政府関係者の予定がある場所を調べてください!!」
数分が過ぎ、風間の我慢も限界に近づいた頃、結果が返ってきた。
「靖国神社………総理大臣の訪問が……日時は? ……今日!?」
風間の顔に戦慄が走る。
断の顔にも険しい表情が浮かんだ。
風間は硬い表情で電話を切った。
断は風間を見据えていった。
「行きましょう、靖国神社に」