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Re: 処刑人斬谷断 第20話更新!! 参照400突破 ( No.44 )
日時: 2011/02/11 22:13
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第21話 「最後の犯行予告」

断たちを乗せたパトカーが道をひた走る。

「くそっ………間に合ってくれ…!!」

風間が必死の形相でアクセルを踏み込む。

パトカーには「道具」を持った断と薬師寺、そして風間が乗っている。

「神社に着いたら人気のないところに直ぐ向かおう。薬師寺、爆弾をとめられるか?」

「私が開発に携わっていた頃と起爆方法が変わっていなければ、何とかなる」

その言葉に風間が反応する。

「あなたも開発に関わっていたんですか?」

「ええ、昔ですけど…………」

「………そうですか。事件が解決したらお話を伺っても?」

「どうぞ」

薬師寺は素っ気無く返した。

(薬師寺……)

断は心配そうに薬師寺を見た。

昔の薬師寺に何があったのかは断は知らない。

しかし、何かの研究でトラブルがあったと言うことは容易に想像できた。

「………着きました!」

断が一瞬考え込んでいると、風間が駐車場のスペースに素早く車を入れた。

断たちは飛び降り、すぐさま神社に走る。


総理大臣が今まさに訪問中というだけあって、人ごみでごった返している。

思うように進むことが出来ない。

「くそっ……通してください、警察です!」

風間が警察手帳をかざすも、ほとんど誰の目にも映っていない。

断は何とか人ごみを潜り抜けようとする中で、横にいたスーツ姿にサングラスをかけた男に目が移った。

(あいつは………)

しかし、そのサングラスの男も人ごみの中に消えてしまった。

見かねた断は風間のポケットから拳銃を取り出すと、上に向かって2回引き金を引いた。

突然の轟音にその場が静まり返る。

「警察です! 緊急事態ですから通してください!」

断が大声を上げて叫んだ。

人々は次々に道を開けた。

「行きましょう」

断は風間に拳銃を返すと、開いた道を走り始めた。















「何を考えているんですか! 斬谷さん!」

風間が呆れたような声を出す。

「緊急事態です、多少強引な手もやむをえないでしょう」

断は平然と返した。

「日本の警察官は一発撃つごとに始末書書かなきゃならないんですよ!? それに群衆を静めるなら別に拳銃使う必要ないでしょう? あれじゃ私達がテロリストになってしまいます!!」

「いいんですよ、それで。さっきの銃声を総理の周囲にいたSPが聞いていたはずです。彼らは即座に総理をこの場から退避させるでしょう」

風間の顔に衝撃が走る。

「では、まさか………最初からこれが目的で……?」

「目の前の出来事だけに惑わされては、本当に大事なことが見えなくなりますからね」

断はそれ以上は何も言わなかった。

(信じられない……この人はただの探偵なのか!?)

風間は内心断の判断力に舌を巻いていた。

「とにかく急ぎましょう。薬師寺、爆弾の大きさは?」

「直径5メートルぐらい。結構大きいから、周りが開けている場所には置けない」

薬師寺がそう言った瞬間、断は足を止めた。

「………斬谷さん?」

風間と薬師寺が戸惑った表情で断を見つめた。

「…………やられた」

断は悔しそうに拳を握り締めた。

「……どういうことですか?」

風間が眉をひそめた。

と、その時、風間の携帯電話が鳴った。

「はい、もしもし………えっ!? 総理が?」

みるみるうちに風間の顔色が青ざめていく。

「はい、はい………それで、犯人の要求は…? ……クソッ! 了解しました、すぐに向かいます」

風間は震える手で通話終了ボタンを押した。

「何があったんですか、風間さん」

断が押し殺した声で聞いた。

「…総理が誘拐されたそうです。おそらくは犯人グループに」

薬師寺の表情も曇る。

「爆弾騒ぎは最初からハッタリ……まんまと動きを読まれた……! 総理と爆弾、2つの切り札を手にしたってわけだ……それで、要求は?」

「要求は1つ。緊急事態と称して現在環境サミットで日本に滞在している外国の代表団を全て浅草プライムホテルに集合させることです」

「代表団を爆弾で皆殺しにする気……!?」

薬師寺が吐き捨てるように言った。

「俺達にヒントを与えて、まんまと神社に誘い出し、しかも総理を無理矢理退避させることまで予想済みだった……アダムに完全にやられた」

断が悔恨の表情をあらわにする。

「ただ、爆弾を仕掛けるだけじゃ警察にバレる。だから総理という脅迫材料が必要だった……そういうことですね」

風間がうなだれる。

状況は絶望的といっても良かった。

代表団が殺されても、総理が殺されても、日本は大きな打撃を受ける。

「ここまでか………!」

風間が天を仰ぐ。

だが。

「いや、まだだ」

断が強い口調で言った。

「……斬谷さん?」

「総理を助けられれば、爆弾はとめられる」

「でも…………誘拐されたんじゃ場所も」

断はポケットから小型のモニターのようなものを取り出した。

「これで分かります」

モニターには赤い点が明滅している。

「これは………?」

「さっき人ごみの中に犯人グループの1人を確認しました。そいつに発信機を仕込んだんです」

「犯人グループ……!?」

風間は信じられないといった顔をしている。

「スーツ姿にサングラス姿の男、見ました?」

「あ………そういえばいた気も…」

「そいつのポケットからわずかにクロロホルムと手錠が見えました。いざというときに自分で総理を誘拐できるように持っていたんでしょう」

「じゃあ、あなたは総理が誘拐されることまで想定して…!?」

「まさか男が予備の計画だったとは思いませんでしたが…仕掛けておいて正解だったようですね」

風間は驚きの表情で断を見つめる。

(ただ者じゃない……!)

「二手に分かれましょう。俺は総理を助けに行きます、風間さんと薬師寺は浅草のホテルに爆弾を止めに行ってください」

「OK」

薬師寺は早速走り出した。

だが、風間は断を見つめたまま動かない。

「……風間さん?」

断がいぶかしんで声をかけた。

「……あ、いえ。すいません、僕も向かいます。1人で大丈夫なんですか?」

「ええ、大人数だとかえって危ないですし」

「そう、ですか…」

通常、誘拐された総理大臣をたった1人、それも民間人が助けに行くなど言語道断だ。

しかし、風間は断に賭けることにした。

「分かりました、爆弾は必ずとめます。総理をお願いします」

一礼して、薬師寺の後を追った。

断はその様子を見ると、自分も息を吸い込み、走り出した。