ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 処刑人斬谷断 第21話更新!! 参照400突破 ( No.45 )
日時: 2011/03/05 12:04
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第22話 「科学者の怒り」

「………ここね」

薬師寺命と風間健介は、爆弾を仕掛けたと言われた浅草プライムホテルの前に立っていた。

「監視の数はそれ程多くは無いはずです。行きましょう」

風間は拳銃を構え、ホテルの中に足を踏み入れた。

フロントにいた従業員が風間を見て目の色を変えたが、風間が警察手帳をかざすとすぐにおとなしくなった。

「爆弾はどこにあると思いますか?」

「おそらくは換気ダクトのそばに。特殊加工した二酸化炭素をホテル全体にばら撒くならそれが一番」

「なるほど」

風間はフロントに近づいた。

「換気ダクトはどこにありますか?」

「え、えっと………そこの扉から階段を一番下まで下がった所にあります」

「そうですか。ありがとうございます」

「あの! 今は業者さんが来てますよ!!」

従業員が大声で言ったが、風間と薬師寺は無視して扉の先に進んだ。

「足音を立てないように……ゆっくりと進んで」

銃を油断なく構えながら、風間と薬師寺はゆっくり地下室に下りていく。

地下に近づくにつれ、なにやら声が聞えてきた。

「業者が作業中のようね」

薬師寺が真顔で冗談を言った。

ほどなくして、2人は扉までたどり着いた。

風間は音を立てないように、そっと扉を開けた。

中には黒服を着た男が数人、直径5メートルほどの球体に向かい、作業をしている。

2人は音を立てずに忍び込んだ。

風間が薬師寺に目で尋ねる。

薬師寺は無言でうなずいた。

2人の目の前にある球体は間違いなく、ネオCO2爆弾だった。













一方、追跡装置によって総理大臣の監禁場所をつかんだ断は、救出の隙をうかがっていた。

確認できただけで、30人はいる。

監禁場所は東京湾のとある倉庫だった。

倉庫の中には、もっと多くの人数がいるだろう。

(さて、どうでるか………)

ただ人数が多いだけなら、断にとっては何の障害にもならない。

しかし、今回は総理大臣という人質がいる。

暴れまわって彼らを全滅させたところで、総理大臣に万が一のことがあれば意味がない。

断は何か使えるものは無いかと倉庫の辺りを見渡した。

すると、断の目に一艘のモーターボートが目に留まった。

「…………!!」

名案が浮かび、断はニヤリと笑った。

作戦の手始めに、彼は携帯でタクシー会社に電話した。










「動くな!!」

風間は銃を構えて作業をしている男達に向かって怒鳴った。

男達は一瞬驚愕の色を浮かべたが、風間の拳銃が目に入るや、慌てて扉の外に逃げていった。

「薬師寺さん。解除できますか?」

「やってみる」

薬師寺は慣れた手つきで起爆装置の外板を外す。

配線をしばらく見つめた後、小さくした打ちした。

「どうかしましたか?」

「私が開発したときと配線が微妙に変わってる。ある程度までは完全に解除できるけど、そこから先は自信がない」

「解除は無理ですか?」

「分からない。やってみないと」

「そうですか。では大使たちに避難命令を……」

「時間がない。これを見て」

風間は薬師寺が指差したものを見た。

「………これは」

起爆装置の隣には、タイマーが設置されていた。

残り時間は10分。

「10分で各国の大使たちを全員非難させるのは無理。多分あなたが銃を向けた瞬間にあいつらが時間を早めたんだと思う。何にしろ、これを解除するしか道は無い」

薬師寺はそう言いながら男達が机の上に残していった工具やカッターなどを取り出し、解除にかかった。

流れるような手つきで線を切り、ねじを外していく。

静寂の中に、薬師寺が作業する音だけが響いた。

そして残り時間7分になったとき。

「ここが最大のヤマね」

薬師寺はカッターを置いてつぶやいた。

ほとんどの線が切られていたが、2本残っていた。

「赤と、青の線……」

「テレビドラマじゃあるまいし、ベタすぎるわよ」

薬師寺が投げやりな口調で言った。

「どっちかが当たり、どっちかがはずれってことですよね……」

「そう。こればっかりは設定した人間にしか分からない。勘で行くしかないってこと」

風間がゴクリとつばを飲み込んだ。

単純な死の恐怖と、これによって日本が受ける尋常ではない被害。

その場に緊張感が張り詰める。

だが、その時。

「そこまでだ」

突然銃を持った男達が現れた。

20人ほどいる。

「そいつは大事な切り札なんでね。離れてもらおうか」

2人は両手を上げておとなしくその場から離れた。

集団のリーダーと思われる男が爆弾に近づく。

「ほう。ここまで解除していたか。危ないところだった、さすがだな、薬師寺命」

「私を知ってるの………?」

薬師寺が眉をひそめた。

「お前だけじゃない。夢見黒夢も、紀伊蜻蛉も、斬谷断も知っている」

リーダーの男が不敵に笑った。

「もちろん、お前が普通の人間だということも知っている。残念だったな、斬谷断なら、俺達なんてあっという間に斬り捨てられるのに」

薬師寺はしばらく黙っていたが、不意に笑った。

「何がおかしい?」

「私が、普通の、人間?」

ゆっくりと、はっきりと薬師寺が「嘘」を指摘する。

「残念、それは大きな間違いよ」

言うや否や、懐から試験管を取り出し、リーダーの男に投げつけた。

「うわっ!! 何だこれは!?」

男はモロにかかった液体の匂いをかいだ。

次の瞬間、男は糸の切れた操り人形のように倒れた。

後ろにいたほかの男達の目の色が変わる。

「貴様、何を—」

言い終わる前に、薬師寺は2本の試験管を投げていた。

空中でぶつかりあい、割れた試験管の中身が化合される—

「うわっ!!」

突然出てきた妙な気体で男達はせきこんだ。

薬師寺はさらに試験管を放り投げる。

「目、目がっ!」

今度は目が開けられないような激痛に襲われる。

「ゆ、許さんぞ! 撃て!!」

誰かがそういった瞬間、薬師寺は風間体を引き倒し、自分も床に伏せた。

そして誰かが引き金を引いたと同時に。




爆発が起きた。




男達は残らず吹っ飛び、全滅した。

薬師寺がゆっくりと立ち上がった。

「ガスの中で銃を発射したら、爆発するに決まってるじゃない」

冷たく言い残し、メガネをくいっと上げた。