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- Re: 処刑人斬谷断 第26話更新!! 企画募集開始!! ( No.57 )
- 日時: 2011/04/05 21:44
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
第27話 「本当の依頼」
「どういうことですか」
薬師寺命は、樋上を厳しい視線で見つめながら言った。
アダムがマリリンを連れ去った後、金縛りが急に解けた3人は事実を問い詰めようと樋上の執務室まで足を運んだのだった。
「本当の依頼は犬探しじゃない。そうですね」
樋上はゆっくりとうなずいた。
「……ええ、そうです。本当に必要なのはマリリンの首輪だったんです」
「首輪?」
紀伊蜻蛉が眉をひそめた。
「首輪って、あのゴツイ……」
夢見が小さくつぶやいた。
「あの首輪の中には、とある機密情報を入力したマイクロSDカードが隠してありました。おそらくその仮面の男は、そのマイクロSDカードが狙いでしょう」
樋上が気落ちした様子で言った。
「機密情報とは、何ですか?」
薬師寺が身を乗り出してたずねた。
「この国の上下水道、電気、ガスなどを制御する全てのコンピュータのファイアウォールの情報です」
「…………!!」
薬師寺と紀伊が息を呑んだ。夢見だけが訳がわからないといった顔をする。
その様子を見た紀伊が夢見に耳打ちする。
(要するに、その情報を使えば、電気やガス、水道を止められるんだよ)
紀伊の説明で、ようやく夢見も事の重大さを理解した。
(それって……)
(ああ、最悪だ。この間のテロっぽい事件より遥かにヤバイ)
夢見の表情もみるみるうちに曇る。
「そもそもの発端は数ヶ月前、妙な女が私にメッセージを送ってきたことから始まりました」
「妙な女?」
「仮面をつけ、ボイスチェンジャーで声を変えていました。ビデオがあります」
樋上は執務室のテレビのスイッチを入れた。
画面には、フードをかぶり、仮面で顔を覆い隠した女が映っている。
『樋上外務大臣』
機械で合成したような声で女は話し始めた。
『あなたが持っているマイクロSDカードを、近々我々が受け取りに参ります。ゆめゆめ紛失などなされぬよう、お願いします』
それだけ言って、映像は途切れた。
「そのメッセージを見て、私は慌ててマイクロSDを隠すことにしました。自宅には置けないので、秘書を通して、それも軽井沢の別荘のマリリンの首輪に隠せ、と命じたのですが……」
「マリリンが脱走してしまったと…」
「はい。マリリンはこれまでも度々脱走していたらしいのですが……お恥ずかしいことに、私はその事実を知りませんでした」
「それで、私達のところに……」
「そうです。利用するようなマネをしたことは、申し訳ないと思っています」
樋上はそう言って深々と頭を下げた。
「いえ、それ程の情報、隠すのが当然でしょう。私達は、騙されたなどとは思いません」
薬師寺はキッパリと言い切った。
「………!」
樋上の顔に驚きの色が混じる。
「ですから、今日はお願いがあってきました。あの仮面の男から、SDカードを取り戻させてはくれませんか。あの男とは、因縁深いので」
「いや、それは願ってもないことですが……いいのですか?」
「はい、もちろん。許可をいただけたので、今日は失礼します」
薬師寺が勢いよく立ち上がった。
「薬師寺さん、紀伊さん、夢見さん、どうかよろしくお願いします」
樋上は再び頭を下げた。
「ええ、お任せ下さい」
「さて、と………」
3人は一旦斬谷探偵事務所に戻り、作戦会議を開いた。
「アダムが絡んでいるってことは、また政府の連中の悪巧みか?」
「でもさー。政府の人が関わってるなら何で水道とか止める必要あんの?」
「確かに………自国のインフラとめても、生まれるのは損害だけ…目的が見えないわね」
3人で頭を抱え込む。
と、そこに—
「なら、今回はアダムは単独で動いているんじゃないか?」
冷えピタ、マスクにパジャマ姿の断がヨロヨロと歩いてきた。
「断……寝てなきゃ」
薬師寺が立ち上がりかけたが、断は左手でそれを制した。
「大丈夫だ。話すぐらいならできる」
「そう……」
薬師寺はなおも心配そうに断を見つめたまま、ソファに座った。
「で、今回の事件だが……アダムは恐らく政府の意向とは関係なしに動いてるな。ついでに言うと、この間のテロ偽装事件のときも」
「え? そうなの?」
夢見が驚きの声を上げる。
「ああ。恐らくアダムは、政府に属しているのではなく、利害関係で結ばれているだけだと思う。でなければ、総理大臣誘拐なんて、冗談でも政府はさせなかったはずだ」
「確かに……」
紀伊がうなずく。
「そこから考えると、アダムは政府の弱みか何かを握っている。政府はそれをネタに揺すられてるんだ。おそらく、これまでの政府がらみの隠蔽工作なんかは、ほぼ全てアダムの仕業だろう」
「て、ことは…………」
「ああ、お前らをハメ、俺を殺しかけた一連の事件の首謀者はアダムだ。今までは全く逆を予想していたが………」
3人の顔に緊張が走る。これから戦うのは、一度自分達を陥れた張本人だと知ったからだ。
「今回の事件は、おそらく政府を揺するネタを作るために起こしたものだろう。奴の思い通りにさせれば、今後政府がらみの裏工作はさらに激化する。何としても止めなきゃならない」
「でも、私達だけでできるかどうか……」
薬師寺が暗い表情でつぶやく。
「大丈夫だ。今回は助っ人を呼ぶから」
断は自信たっぷりに言い切った。
「助っ人?」
夢見が首をかしげた。
「ああ、どうしてもって時だけ協力してもらってる」
「………! ジョーカーね…」
薬師寺が納得したようにうなずく。
「何者なんだ?」
紀伊が尋ねる。
断は不敵な笑みを浮かべていった。
「ハッキングの神様だ」