ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 処刑人斬谷断 第27話更新!! 企画募集開始!! ( No.58 )
- 日時: 2011/04/15 13:17
- 名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)
第28話 「ジョーカー登場」
いくつものディスプレイを見つめながら、テッド・スタークはため息をついた。
「忙しいのも嫌いだけど、ヒマすぎるのも考え物だな……」
テッドはハッカーである。彼はインターネットを使った違法な「小遣い稼ぎ」で生計を立てていた。
ただし彼の仕事は並大抵のものではない。彼の母国アメリカを始めとする先進国の機密情報などを扱う危険極まりないものである。
無論このような情報が流出することは計り知れない影響を与えるが、テッドは他のハッカーと同じく勝手気ままな性格である。自分のしたことで起きることなど気にも留めない。
彼が他のハッカーと違う点は1つ。絶対に捕まらないことだ。
テッドが初めてハッキングを行ったのは中学3年生のとき、アメリカの国防総省のデータベースへのハッキングだった。
以来、彼は10年間ハッキングを続けているが、逮捕どころか捜査線上に浮かび上がったことすらない。
「さーて………今度は何をするかな…」
テッドがキーボードに手を置いた瞬間、携帯電話が鳴り響いた。
「電話………か。おお、これは珍しい」
テッドはニヤリと笑いながら通話ボタンを押した。
「もしもし」
『俺だ。久しぶりに仕事を頼みたい』
「ふーん………ま、ちょーど退屈してたとこだ。いいぜ………けど、どうした断? 声に元気がないぞ?」
『あー……ちょっと、インフルエンザでな…』
電話の相手、斬谷断はバツが悪そうに答えた。
「へえ。あんたでも病気するんだな………で、仕事って?」
『実は……』
断は外務大臣樋上が斬谷探偵事務所に訪れたことから全てを話した。
「なるほどね。ようするにその仮面の男、アダムは日本のインフラの全てを止めることができるわけだ」
『そうだ。食い止めるのに力を貸してもらいたい。俺は動けないから、助手に指示を頼む』
「それは構わないけど、約束は覚えてるよな?」
『今回の報酬は3億だ』
「ほう………まあまあだな。やる気が出てきたぜ」
『よろしく頼む。薬師寺に携帯を預けておくから、指示は薬師寺に』
「……あのマッドガールまで動くとはね。そんなに深刻な事態か?」
『ああ、相当な。時間がないから急いでくれよ』
「了解」
『期待してるぞ、ジョーカー』
「おまかせあれ、と言っておこう」
テッド—ジョーカーは電話を切った。
「さて、働きますか」
「断はジョーカーって人に任せればいいって言ったけど…大丈夫なのかな?」
夢見が心配そうにつぶやく。
「さあな。でも手がかりがない以上、そいつだけが頼りだ」
紀伊が他人事のように言った。
「大丈夫よ。ジョーカーの実力は本物」
薬師寺がキッパリと断言した。
「でも—」
夢見が言いかけた瞬間、薬師寺が手に持っていた携帯がなった。
薬師寺はすかさず通話ボタンを押す。
「もしもし」
『久しぶりだなマッドガール。ジョーカーだ』
「相変わらずね。待ってたわ」
薬師寺は苦笑しながら答えた。
『早速だが、情報だ。ちょいと調べてみた結果、取られたSDは万が一インフラが停止したときに使用する予備動力の起動させるためのデータが入っている』
「え、じゃあ……」
『そう、本来ならこいつでインフラを止めることはできない。だが、改造すればそれも可能だ。このデータの利点は全国のそういった系の施設全てを動かせること。多少の改造の手間は覚悟しても手に入れる価値はあるな』
「じゃあ、どうすればいいの?」
『データの改造には高度な技術が求められる。そこらの技術者じゃ絶対にできない。最低でも犯罪捜査機関の情報分析官級の能力がいる。しかもこの仕事は完璧な違法行為。ハッカーにしか頼めねえ。日本にそこまでのハッカーは片手の指で数えられるぐらいしかいない』
「じゃあ、そのハッカーを抑えれば…」
『奴らの計画はオジャンだ』
「……さすがね、ジョーカー」
『それほどでもないさ。さて、ハッカーを特定してみるから少し待っててくれ』
返事を待たずにジョーカーは電話を切った。
「………え、どうなったの?」
夢見が首をかしげる。
「すぐに外に出る準備をして。ジョーカーが場所の指示を出すから」
薬師寺はそう言うなり、部屋から飛び出た。
イマイチ状況を把握できないまま、夢見と紀伊も後に続いた。
3人が外に出た瞬間、再びジョーカーから電話が来た。
「もしもし」
『特定できた。ハッカーの名前は白峰凛(しらみねりん)18歳の女だ。どうやらこの手の改造のスペシャリストらしい。こいつで間違いない』
「分かった。白峰の住所は?」
『いや、奴は自宅ではなく使われていない校舎にアジトを構えてる。まだ高校生で親と暮らしてるから家だとまずいんだろう。今日は休日だからアジトにいる可能性が高い』
「そっか………場所は?」
『旧桜坂高校校舎。住所は—』
薬師寺はジョーカーが言った住所を素早くメモした。
「OK、メモした。じゃあとりあえず白峰に会いに行く。確保したら電話するね」
『了解』
携帯をポケットにしまい、薬師寺は2人の方を向いた。
「行くわよ」
「ああもー、だからイヤだって言ってるでしょ!?」
使われていない校舎に、甲高い声が響く。
「ふむ………困りましたね。あなたにぜひ協力してもらいたいのですが、白峰凛さん」
派手な仮面をつけた男、アダムが目の前の高校生ハッカーに冷たい微笑を向ける。
「イヤ。あんたみたいに不気味な奴の依頼なんて受けない。帰って」
白峰は強硬にアダムを突っぱねる。
「仕方ありませんね。非人道的なやり方は嫌いですが、やむを得ないでしょう」
「は? あんた何言って—」
言いかけて、白峰は硬直した。
アダムの手には銃が握られていた。
「さて、もう1度聞きます。協力してくれますか? 白峰さん」