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Re: 処刑人斬谷断 第30話更新!! 企画募集開始!! ( No.63 )
日時: 2011/05/01 23:17
名前: いち ◆ovUOluMwX2 (ID: PmZsycN0)

第31話 「助手の底力」

(バカな………)

アダムは声も出ないほどの衝撃を受けていた。

彼は薬師寺たち3人は廃校で始末したものと思っていたからだ。

「あら、私達が生きていたのがそんなに意外だったかしら?」

薬師寺が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

アダムは何も答えず、ただ3人の顔をじっと見つめている。

だが、それは呆然としているのではない。次の手を考えているのだ。

(あの『力』は使えない…………ならば)

決断を下したアダムは、小さく1つ息を吐いた。

「………いやはや、驚きましたよ。まさか生きていたとは……ゴキブリ並みの生命力ですねぇ」

「それは褒め言葉と受け取るぜ。アダムさんよ」

紀伊がハンドガンの銃口をアダムに向けた。

「—お礼にこいつをくれてやるよ!!」

言うや否や、引き金を引いた。

が、その瞬間アダムは弾かれたように体を倒し、銃弾をかわした。

「そのお礼は……お断り申し上げましょう!」

そのまま床を転がり、近くの機械の陰に隠れる。

「あはははははは!! 何やってんの蜻蛉! へたっぴ!!」

夢見が大笑いしながら叫んだ。

「うるせっ! あんなマトリックスみたいなマネができるなんて予想できるか!」

紀伊が不機嫌な様子を全開にして舌打ちした。

「はいはい、言い訳は結構……じゃ、夢見ちゃんよろしく」

「りょーかいっ!」

しかめっ面の紀伊をよそに、薬師寺と夢見が前に出る。

まずは夢見がアダムが隠れている機械の陰に、試験管を投げ込んだ。

試験管はアダムの直ぐ横で割れ、同時に怪しげな気体が発生する。

「…ふむ、毒ガスですかっ……!」

アダムはすぐさま機械の陰から這い出る。

「待ってましたっ!!」

当然、そこには大剣を振りかざす夢見が待ち構えていた。

「—真っ二つになっちゃえ!」

見た目からは想像もできないような怪力で、夢見は大剣を振り下ろした。

が—

「………ふえっ!?」

直後に、夢見が素っ頓狂な声をあげる。

夢見だけでなく、薬師寺と紀伊も愕然とした顔になっていた。

アダムは大剣を、なんと白刃取りしていたのである。

「……ふう、危ないところでしたね」

アダムはニヤリと笑った。

「………あなた人間じゃないわね」

薬師寺があきれ返った様子で言った。

「いいえ、私は立派な人間ですよ。それに第一、人間離れしているのはあなた方も同じでしょう?」

「うん、それは確かに」

夢見が納得した様子でうなずいた。

「って、うなずいている場合じゃないだろうが! 早く真っ二つにしろ!!」

紀伊が怒声を放ち、我に帰った夢見だったが、時すでに遅く、アダムは大剣の下から抜け出していた。

「さて……残念ながらこれ以上あなたがたに付き合っている時間はありません。そろそろお暇させていただきましょう…!!」

「させるかっ!」

紀伊が発砲するが、アダムはそれもかわし、大きくジャンプした。

「ふふ………ではさらばです。これで私の3連勝、ですね」

3人のはるか頭上でアダムは会心の笑みを浮かべている。

その瞬間、3人のこめかみに同時に青筋が浮かんだ。

「何か、あいつ逃げ切る算段立ててるみたいだけど……?」

「全くの心外ね。私達もなめられたもんだわ」

「借り物は即返さなきゃ、だよね……?」

3人の周りに、どす黒いオーラが立ち込める。

「………!?」

アダムはその様子にかすかに身震いした。







『待てやコラーーーーーーーっ!!!!』








夢見と紀伊がジャンプし、薬師寺が巨大なフラスコを投げる。

フラスコがアダムの近くに来た瞬間、紀伊がいつの間にか弾の装填していたマシンガンの引き金を引いた。

中の液体が、一瞬反応が遅れたアダムに降りかかる。

「………!? これはっ!?」

液体がかかった瞬間、アダムは猛烈な吐き気に襲われた。

「思い知ったかしら? 私の特製アンモニアの威力! 通常の原液の500倍の臭さよ!!」

「……うっ、ここまで臭ってくる」

夢見が一瞬顔をしかめたが、すぐに気を取り直し、大剣を振りかぶった。

「蜻蛉!!」

「任せろ!」

紀伊はマシンガンの弾を取り出し、それを夢見の目の前に放り投げた。

「………何を!?」

アダムがこの世のものとは思えない異臭から、ようやく夢見の行動に意識を向ける。

「よう、アダム。こいつの馬鹿力で弾かれたマシンガンの弾の威力知ってるか?」

紀伊が底意地の悪い笑みをアダムに向ける。

「………な、やめっ」

アダムの顔に戦慄が走る。

「これでも喰らえーーーーーーーーーっ!」

容赦なく、夢見は大剣を振り下ろした。

大剣の重みと夢見の怪力を受けたマシンガンの弾丸は、音速を超える速さでアダムに襲い掛かった。

「…………がっ!」

アダムは弾をモロに喰らい、下の浄水ポンプに叩き込まれた。

「どんなもんだいっ!!」

空中で夢見がガッツポーズをする。

紀伊もめったに見せないほどの満面の笑みを浮かべる。

だが、床にいる薬師寺だけは、顔色を失っていた。

「ま、まさか…………」

薬師寺の視線の先には、夢見が弾き飛ばしたマシンガンの弾で穴だらけになったパイプから水がもれ出している様子があった。

薬師寺の様子に気付いた紀伊と夢見が、不審げな顔をして薬師寺の視線の先を追う。

そして2人も同時に真っ青な顔になった。

『……………』

奇妙な静寂が流れる。

破ったのは、水道管が破裂した音だった。







『何でだああああああああああああああああああ!!!!!!!』








間抜けな断末魔を最後に、3人は怒涛の勢いで押し寄せてくる水に流された。