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【第弐話】黒蝶は頑なに籠る  @1 ( No.10 )
日時: 2010/12/26 21:33
名前: 氷兎 (ID: 8hgpVngW)




見上げるは、天の星——

「……居た」

未来の君は、美しく輝き、籠へ連れ去られていた。
君の隣は俺の筈だったじゃないか。それなのに、何で。

君は星を見上げた。儚げに、睫に影を帯びて。『蝶羅』の団体の中に、俺を見つめる視線は感じられない。
俺は静かにビルの上から、天から遠ざかり、『蝶羅』の前に立つ。

「お前……っ、『緋蜘蛛』のあ」「青蜘蛛、だけど」

『蝶羅』の入り口監視の前に居た奴に話しかけられる。
何かを悟ったようで、俺に言う。

「ボスなら居ないぜ。今は出かけてんだ」
「……興味ない」

何か分からないような顔の監視員は放って置いて、俺は『蝶羅』の中へと足を踏み入れる。
中に入って最初に見たのは2、3人の子供だった。

「……っ」

怯えたような顔を俺に向けて三歩後ずさる。一人、小学生で例えると4年生くらいの女が俺の前に来る。
まるで怯えている子供の視界に俺の姿を入れないように、俺が、汚らわしい者のように。

「何か用ですか」
「さっき戦った奴、居る??」
「……何か用ですかっつってんですよ」

俺、今用事言ったよな。確実に言ったよな。
俺は断じて間違ってない、と思う。

「……だから、さっき俺と戦った奴いるかって」「……居ないっつったらどーなりますか」「居るのか」

俺は埒が明かないと悟り、女を無視してそのまま奥へと進む。
それから、頬が冷たいと脳に指示を出したと思って後ろと首の方を見る。
後ろで短剣を持って俺に向けている女の姿が目に入る。

「居やしませんよ」
「嘘だろ」
「嘘じゃねーです」

俺は構わず前に進む。まあ、当たり前だけど頬についていた短剣の所為で頬から血が垂れる。

「……何、してくれんの」

そう言って俺は女を遠くに吹っ飛ばす。女は小さく胃液を吐き出し、ドアに倒れこむ。
俺は女を見捨て、先に進もうとする。

「……ま、待て……っ」

後ろを振り向くと、女の短剣を持った6歳くらいの片目が隠れている餓鬼が俺を見据えている。
短剣を持つ手こそ震えているが、俺を見据えるその目は真摯だった。

「何だ」
「ねっ……ねーちゃんに、謝れっ!!」

俺はその餓鬼の髪を片手で掴み、両目がしっかり見えるようにする。

「な……っ、怖くなんかないぞ……っ!!」「いい目だ」「……え??」

餓鬼は驚いたように俺を見て、一様に首を傾げる。

「いい、目をしている」
「……っ、変な奴……」

餓鬼は俺の手を振り払い、女の位置まで行く。
女は餓鬼が差し出した手を断り、立ち上がって、俺を睨んでから外へ飛び出した。
その時、俺の横腹に何らかの衝撃が飛んできた。

「やーやー、先程ぶりですな♪」

そいつは、俺が探していた人物、もとい御子神依里弥だった。
手には数個の石がジャラジャラと弄ばれている。その内の四個を俺に投げつけ、一個だけ俺の額に当たる。

「さっきはわたしのお仲間さんにあーんな事してくれちゃってー」

兎の耳を揺らしながら、朱色の着物で目を惹かせるその女は、

俺が捜し求めている人物そのものであって。

「流石にわたしも黙っちゃいないよー」
「……やば」
「え、にゃにが??」

俺のその感嘆の一言にはてなまーくを沢山浮かばせて。
やはり彼女は彼女だと、再自覚する。

「まーいーや」

ブラブラしていた両手は腰に差した木刀に伸び、前を向き静かに構える。

「今回は油断しないから、その心算で」

彼女の速さはやはり前回のそれとは比べ物にならなかった。
それは、俺だって同じだけど。