ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

【第弐話】黒蝶は頑なに籠る  @2 ( No.11 )
日時: 2010/12/26 21:35
名前: 氷兎 (ID: 8hgpVngW)




「ぬぬっ、やっぱ君速いわー」

そう戯言を抜かしながら彼女——依里弥は正確に木刀を身体に打ち込んでくる。
俺には武器という武器も無いし、何より俺は戦争をしに来たわけじゃない。だからここは簡潔に終わらせるのが一番いいと判断したい。

「わたしも速くしてみたけど、追いつかない……やっ」

結局木刀を素手で受け止める形に落ち着いた。俺の掌からは血が滴って床に血だまりが出来る。
俺は木刀を受け止めてない方の手で拳を作り、依里弥の腹に目掛けて打ち込む。
だが、彼女も片手が空いていたので、俺の拳は受け止められる。

「へっへーん、これでどーだ」

自慢げに歯をチラリと見せて言ってくる。ちょっとイラッとしたのは言うまでも無く。

「手がだめなら……」

俺は膝で依里弥の腹を蹴り上げる。依里弥の身体は少し宙に浮き、衝撃で頭が前に来てたので俺の方に倒れる。

「つーか、戦争しに来たわけじゃ、ないし」
「んな??な、にしにきたの」
「ん」

小さな厚紙を依里弥に差し出す。
依里弥はその紙を見て眉を顰め、ふぅ溜息を吐く。

「で、わたし」

依里弥は自分の顔を指差しながら不満そうな顔をする。
俺はその行為に小さく頷き、踵を返す。

「もう??」「その為にきた」「あ、そう」

短い会話を終わらせ、また歩き出す。
依里弥は『蝶羅』を出た後一度振り向いた。
……未練、ありありな感じ。また帰れるのに。

「ねーねー、依頼ないよーは分かったけど、何処行くの??えと、藤くん??」

俺の名前を確かめながら首を傾げて尋ねてくる。
違う、そうじゃなくて。君が俺の名を呼ぶのは、「藤くん」じゃなくて。

「どったの」
「……B-17地区の第14倉庫」
「そ」

此処ではA〜Dの地区を、更に20に区切って使うから微妙に分かりにくい。
因みに俺は記憶力悪いから合ってるか分からない。
違ってても気にはしない。どうせ大した内容じゃないし。

「おーい、藤きゅん。違うよ、第14倉庫はこっちだよ」
「俺に指図すんなよ、三下のくせに」

早くに右方向へと曲がった依里弥に軽く注意される。
ちょっと、ショックだったからムッとして誤魔化しておいた。

「ぬははー、藤きゅるんは方向音痴ですなー」
「うるさい」

色々呼び方変わるな。
依里弥は見てて面白いタイプだけど、今はただ、辛いだけだ。
着いた倉庫の前には裏企業『聖天使』の拠点だった。拠点ぼろい。
拠点前では『聖天使』の家来っぽいのが俺達を発見して、大声で叫んでいる。
正直うるさい、近所迷惑、今は夜なワケですから静かにして貰いたい。

「ちょーっとボスぅ!!早速『青蜘蛛』が来ちゃいましたぜ?!しかも女連れ!!」

しかも、叫んでる奴結構なウザさを持つ奴だった。
例えるなら彼女が居なくて彼女持ちの奴に「別に彼女居てもいい事ねーよな」とか言ってるようなモン。分かりにくい。

「ほぅほぅ、天下の『青蜘蛛』サンがねぇ……」「うるさいよっ。それにわたしこの人の女じゃないし」

キッパリ言われた。

「藤きゅらりん、行きますぞ」
「分かってる」

俺は武器使わないから素手で構える。依里弥は念のために真剣を持ってきてたみたいで構えている。

「……天使の大事な羽根は切り落とさせて貰いまするっ」

依里弥は籠から出された鳥の如く、意気揚々と人間のその身を切り裂いていた。