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【第参話】黒蝶は忘却に死す  @2 ( No.18 )
日時: 2010/12/26 21:37
名前: 氷兎 (ID: 8hgpVngW)



「隼音は死んじまったのさ……」

刹那、時が止まったような気がした。
わたしを拾ってくれた隼音さんが、優しい隼音さんが、もうこの世にはいないなんて。
突然すぎて、受け入れられる筈も無かった。

「嘘、でしょ」
「……ほんと」

李庵さんは小さく吐き捨て、持っていた煙草に火を点ける。
流れていた涙は絶たれ、わたしは李庵さんの横を駆け抜けた。

「待てっ!!」
「……隼音さんは死んでない死なない死ぬ訳がない」
「わちきも協力しぃす」

追いついた李庵さんがわたしの肩を持って言う。

「わちきは向こう、あんたさんはそっち」

指を左右に振って示す。
わたしは示された方向に向かって全力で走る。
だが、一度振り返って李庵さんが居ない事を確認し、路地裏に入り込んでいく。
李庵さんが、居ない事を信じて。

路地裏に入った後、李庵さんが向かった方向に走る。
李庵さんと会った時の挙動がおかしくて、わたしは李庵さんが隠してるんじゃないかって思った。

どれくらい進んだだろう。
前方10メートルの角に人の足が見える。
わたしはその足に近づき、角を曲がった所にあったものは。

「隼音、さん、なの……??」

中に入っている人間より、一回り大きい布に包まれたものは、わたしの恐怖を掻き立てるような腐臭と、異様な形をしていた。
上から見て腹部辺りのところから地が滲んでいる。
わたしはおそるおそる布を捲るとそこにあったのは。

「……っ」

鼻を劈くような臭いが先に届き、わたしが一番見たくなかったものの姿がそこに。

「ああ、ああああ」

人間の死体。
隼音さんの、死体。
四肢と首と胴体を切り離された、死体。
わたしの頭の中に届いた情報は、

隼音さんの、死。

「あああ、ああああああああ」

声が、みるみる恐怖へと変わり。

「%’”#(%)$’#”=%」

声にならない声が続く。
隼音さんとの思い出が頭の中で駆け巡り、

「             」

一番古い思い出から消え去って行く。
隼音さんが、わたしの頭から消えていく。

「んで、あ、びょーいん??けーさつ、あ、ぐぎ、」

何を考えてるか分からなくて。
自分が人間かも危うくなって。
わたしはその場で胃液を撒き散らした。
喉の奥が熱くて、カラカラしてて、息が上手く出来なくて。

もう、何も考えられなくなって。


隼音さんを、忘れて。



何故か、藤くんが頭を支配してて。




自分が、自分で無くなった。