ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 【第参話】黒蝶は忘却に死す @4 ( No.22 )
- 日時: 2010/12/20 21:47
- 名前: 氷兎 (ID: 8hgpVngW)
あの時は少しばかり、否、凄く気が急いていた。
あの日にもっと慎重に、見ていれば良かったのに。
「うっひゃー、うじゃうじゃおるやん」
「そんな虫みたいに言わなくても」
オネーサン、もといわたしの兄貴(兄貴居たのだ)の関西弁を話す彼女、紫連 胡蝶さんがわたしの元仲間を虫けら同然に扱う。
わたしが『蝶羅』から抜け出して一週間が経った。本格的に捜索を始めたらしく街の中にはわたしを探す声が響いていた。
「胡蝶さん、一言怒鳴ってき」「おいィてめぇらうるせぇんだよォ!!」
胡蝶さんは早速怒鳴った。
街中に居た『蝶羅』の人Aは良く見ればディアスだった。少し身体がビクッと強張って此方を見る。
わたしは店内の厨房に隠れている。
「あの、ここらでこんな女の子見ませんでし」「見てへんわ、ボケェ」
あぁん??と言葉を付け足して胡蝶さんはディアスを脅している。いやだって断ってるより脅してる方が合ってるかなって。
ディアスはそれでも引き下がらなくて店内にまで入ってきた。
厨房に居たわたしの兄貴、御子神 莢が耳の近くにまで口を近づけ、「音を立てんな」と注意してきた。
「店内、見せて貰ってもいいすか??」
「あかんわ。ここにはあたしとダァリンの愛の巣やっちゅうねん。土足で上がんな」
公共の喫茶店を愛の巣と称するアンタは何なんだと心の中で静かにツッコミを入れる。
兄貴は吸っていた煙草で咳き込みながら苦笑する。わたしはやる事が多くて大変だねと呆れる。
「けぇんな。アンタが何を言おうと通さへんからな」
「じゃあ、客として入ります」
「ほんなら一名様ご案内や」
なんでやねん、と関西弁に釣られて突っ込む。
何だかヤバくない??と思うのですが。胡蝶さんはやっちゃったみたいな顔してるし。
「胡蝶」
「んあ、お客様ァ??何がよろしいですかァ」
すっごい憎たらしい言い方で言ってる。今更過ちを取り消そうだなんて良からぬ事を考えるな。
面倒臭そうにしてめちゃめちゃ圧力与えちゃってるよこの人。大人気ないよ。
「胡蝶、そーじゃなくて。つーかもちっと愛想良くしなさい」
兄貴は親指を横に向けてゴミ箱の方向にクイッと動かす。
胡蝶さんは理解したのか頷いて兄貴とダンボールに入ったわたしが居る厨房に来る。
何でダンボールかって??うるさい。
「よっこらせっと、重いわクソッ」
ドスンッと落とされる。
やべぇ、超お尻痛いっ!!もっと丁重に扱って!!
「ほら、貸せ」
「あはは、すまん」
胡蝶さんは笑いながら頭を掻く。
ディアスはそのダンボールを不審に思ったのかずっと見つめている。
おい、メニューっつーか何か作ってやれよ。
「胡蝶はメニュー何か作っといて」
はぎょ!!以心伝心しちゃった、流石兄妹!!
そんな関心している場合じゃなくて。もっと大事な事。
わたしは一体何処に連れて行かれているのかな。
全然何にも言われてないんだけど。わたしはどうすればいいんだよと嘆く。
「胡蝶、戸締りは、しっかりな??」
「はいよぅ、任せときぃ!!」
…お前も来るんかい、兄貴よ。
そうしてディアス一人放っておいて、わたし達はそのまま進んで行くのでした。
喫茶店の裏口から出た瞬間、兄貴の抱えたダンボール越しに声が聞こえる。
「ちょっとサーセン。此処、通行料金居るんですよ」
妙に聞き覚えのある声だ。
ダンボール越しの声でしか確認できないけど、多分——
「そのダンボール箱置いていってくれねーですか??」
——永夢、だね。