ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

【第四話】黒蝶は儚げに詠う  @1 ( No.23 )
日時: 2010/12/22 19:56
名前: 氷兎 (ID: 8hgpVngW)



「そのダンボール箱置いていってくれねーですか??」
「まじか、通行料いるんか。俺が知らん間に変わったな、ここも」

いやいや、無理あるって。
兄貴はわたしが入ったダンボール箱を下に置き、その上に座って一服する。
永夢は見下したような目で此方を見て、ダンボールにする行動に目を見張る。
兄貴は刀を取り出して、ダンボールに刺した。

「あ、刺しちゃった♪」
「 ?! 」

永夢はその行動に目を丸くし、同時に怒りに満ちた目になる。わたしが入っている事を分かっているのだろう。わたしが殺されたと思っている。
実際右足の足首に貫通して、兄貴の刀にはわたしの血がついている。
永夢は脚力が凄くてチーターくらい速いんじゃないかってくらい速い。…例えが無茶すぎた。

「それ、何ですかね」
「何だろうな」
「暢気ですね」
「そーだな」

気が締まらない会話が少しだけ続き、焦りと憤りを覚えた永夢は間髪を挿まず兄貴に銃を向ける。両手に二つずつ持ち合わせている。
兄貴は一向にダンボールから退こうとせず、ただ其処に座っているだけだった。
そして、永夢は弾丸を連射した。

「おいおい、相手より先に痺れを切らしちゃだめだろ」

そう言って永夢の放った弾丸を全て刀で跳ね返していく。勿論一つ残らず。
そして裏口から鈴の鳴る音が聞こえる。
裏口から出てきたのは血に濡れたディアスと、返り血を浴びた胡蝶さんだった。

「ごめんなぁ。食ってしもたわ、けど結構美味かったで」

胡蝶さんは妖艶に笑ってみせ、舌なめずりをする。

「アンタも美味そうやけど、今は遠慮するわ。ほら、こん子やる」

そう言い放ってディアスを前に、永夢の足元に投げ捨てる。
ごろごろと投げられた血塗れの手を見れば、指が三本程無くなっていた。

「ほんなら、行きぃ。こん人達から逃げとるんやろ??あ、ちゃうね、助けとんか、こん人達を」

その姿はとても17歳の女の姿には見えなくて。
わたしを支援してくれているその姿勢が、逆に痛々しくて、切なくて。
わたしが皆を壊してしまうんじゃないかって。
不安が押し寄せて震える。兄貴はそれを感じ取ったのか胡蝶さんの意向通り立ち上がった。

「じゃーな。負けんなよー」
「誰が負けるかぃ。サヤも、上手くやれよ」
「うっせーな」

わたし達がここから抜け出そうと後ろを向いた時、

「逃げてくれちゃあ困るのよネェ、ワタシ達についてきてくれないかしラ??」
「早く行けよ、倫埜」

斉泰 倫埜と茶堂 藤が喫茶店の路地裏の道を塞いでいる。
何であいつらはいつも逆光なんだろう。まあわたしダンボールに入ってるから逆光でも違っても同じなんだけど。

「なーんだかなー。キミの依里弥を見る目がすっげぇ危ないから渡したくないんですけど」

こんな時にシスコン発動してる場合ですか兄貴。どーでもいーだろ。
因みに今のは藤くんに宛てて発した言葉であり、決して倫埜さんではありません、断じて。

「連れて行って何かのプレイでもすんですかー、お兄ちゃんが許さんぞそんなのー」
「違いますヨ、どんな勘違いなんですカ!!」

多少気に障ったか少し本気で怒ってくる。
つーか兄貴も兄貴で何変態みたいな事考えてんだ変態だけど。

「つかさぁ、ほんとにやめてくんねーかな。依里弥が変態になっちゃうから」

わたしの心配より自分の心配をしろよ。
そろそろ胡蝶さんの体力も落ちてきた。強行突破も難しそうだし、かと言って話し合いで解決するわけも無く。
てか死んでくれって言ったくせに何で連れて行こうとするわけ??兄貴の言う通り何かすんの??
……いけない。ありえすぎていけない。

「俺は依里弥の幻想を壊したいなーってだけなんだからさ。もう、悲しんでる依里弥は見たくない」

言い切って兄貴は刀を構える。藤くんが倫埜の前に来て拳を構える。
藤くんは武器は使わないらしいから素手で強いんだよ、凄いね。
藤くんが放った右拳昇打が兄貴にクリーンヒットし、わたしが入っているダンボールを下に落とした。
わたしは何が起こっているか分からなくてただお尻に来た痛みに耐えるだけだった。

「んジャ、『青蜘蛛』はそれを持っテ」「無理」

藤くんはダンボールを抱えてその場から去ろうとする。
永夢と胡蝶さんと倫埜さんが手を伸ばしてわたしを取ろうとするけど藤くんが取り出した鏡に光が反射して眩しさでそれ以上前に進めないようにした。

「裏切ったわネっ!!」
「元より従った心算はない」

そう言ってどこか遠くへ行った。
彼は一体何なのか。何故わたしの事を知っているのか。

彼は何も喋らず、ただダンボールを抱えて走っていくだけだった。