ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 【第四話】黒蝶は儚げに詠う @2 ( No.26 )
- 日時: 2010/12/26 21:40
- 名前: 氷兎 (ID: 8hgpVngW)
空中を移動している最中、わたしはダンボールの側面をバンバン叩いた。
叩いたから少し不安定になってグラッとなる。
「もう流石に出してもよくない??」「出したくない」「何で」「……重いから」「失礼な」
ダンボールに入ってた方が重いし嵩張ると思うんだけど。藤くんはただ面倒くさいだけだと思う。
つか兄貴とか胡蝶さんはどーなった。
「ねーっ」「何」「藤くんてわたしと会った事ある??」「何で」「何となく」
藤くんは一度立ち止まる。
ダンボールを下に置いて、わたしを出してくれた。うん、やっぱいい子。
置いた後、新しい塗装がしてある建物の中を覗いていた。
会った事があるって言うのは自信がある。それも、短い期間じゃなくて長い期間。
何処で会ったとか分からないけど。
「……依里弥の、父さん」
「うん」
「俺の母さんの、不倫相手」
「……うん。でも普通不倫相手の子供とは会わないよね」
「父さんが、——を殺したから」
「えっ??」
上手く聞き取れなかった。まあ、××さんとしよう。でもお父さんがその××さんを殺したとしてもわたしと藤くんが会う理由にはならないはず。
言おうと思ったけど、言えなかった。
彼の、死んだ筈の彼の懐かしい声がわたしの耳に木霊したから。
優しい声が、綺麗な声が、少し低めの声が、今わたしの耳に甦ったから。
「……は、やね、さ……」
隼音さんが生きていた!!
あれ、じゃああの死体は、何??李庵さんが、隼音さんが生きていた事実を隠そうとした??何で。
何で李庵さんは隼音さんが死んだって言った??分からない。
「あの人、生きてんだよ。でも、多分依里弥の事忘れてる」
「……な、んで、」
「依里弥もじゃん」
「え」
藤くんはめいっぱいわたしの顔に自分の顔を近づける。
わたしの頬を両手で持って、唇が重なりそうなほど近くまで。
その顔は横にずれて、わたしの耳の近くでボソッと言う。
「依里弥、俺の事忘れたじゃん」
わす、れた。藤くんの事、知ってた。なのに、忘れた。
きおくがよみがえる。わたしの家族と一緒に、わたしの家族が、ころされ……??
きおくの中の出来事。
目の前に血飛沫が、
飛んだ。
「え、うそ。しんだ??だれが。わたしが??だれに、……だれ??え、は??なんでえええええええええ?!」
奇声を発するわたし。全然耳に届かないのに、何で藤くんは耳を塞いでるの??
わたしの声の所為??ごめんね、直ぐにぼりゅーむ落とすから。
少しだけ小さくなった声はそれでも途切れる事はなく、その地に響き渡る。
建物の中からわたし達を疑う声が聞こえる。藤くんはそれを察してわたしを抱えて逃げる。
そこからちょっと離れたビルの屋上についてからもわたしの奇声が止まる事はなくて。
「静かに、しろよ」
そう言ってわたしの首に手を添える。わたしは少しだけ咳き込み、奇声が止まる。
だが目に恐怖と焦りと憎しみが浮かび上がっていて、それは消える事を知らず、残り続ける。
怯えているわたしをしっかりと抱擁し、そのまま手と足を縛られる。暴れたりしない為だろうけど、変な妄想が出てきて困る。
「大丈夫だから、わたし、もう、だいじょぶだから」
「どこが。震えてんじゃんか」
指摘され、震えを止めようとする。でもそれは逆効果で更に震えが増すだけだった。
「ねえ」
わたしの15年の人生の中で一度もされた事が無かったお姫様抱っこなるものを藤くんがしてくれた。
おおう、何か地味に恥ずかしいぞ。
そして、一度も見た事が無かった藤くんの笑顔に癒されながら夢の中の迷い子となろう。
今日は一度もなかった事をされるのが多いな。
「俺と一緒に居ろよ」