ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

【第四話】黒蝶は儚げに詠う  @4 ( No.30 )
日時: 2010/12/26 21:43
名前: 氷兎 (ID: 8hgpVngW)


家に着くと、いつも聞こえる「おかえりなさい、××」っていう声が聞こえなかった。
おにーちゃんなんかすぐに飛んできてわたしを抱きしめてむぎゅむぎゅしてシスコンまるだしなのに。
わたしは感じた。何かがおかしい。

「びっくりぎょうてんあらふしぎーだねー」

居もしないだれかに言ってみる。ぷらす、首も傾げてみる。
わたしはくつをぬいで、散らかっているおにーちゃんのくつとかおかーさんのくつを揃える。うん、ばっちし。
ちょっと満足する。

わたしは薄汚れた茶色い玄関マットをふみこえてリビングにいく。
おかーさんがいた。だきつきたかった。頭をなでなでしてほしかった。おかえりーって言ってほしかった。
なのに。

「おかーさん??なんでねてるの」

おかーさん、ねてた。寝息を立てずに。
白いワンピースの上におかーさんお気に入りのピンクの水玉エプロンしてて、もう死んでるんじゃないかってくらい。
んや、ちがうな。もうすでにおかーさんのお気に入りのピンクのエプロンは紅く染まっていた。

「死んでるの」

返事は、あった。小さい堰をして、うっすらと目を開けていた。

「……××??おかえり、なさ……い」
「うん、ただいま!!楽しかったよ、おっとなーのかいだんのぼっちゃった!!」
「そう、なの」

もっと、ちがう話題があったのに、わたしはマロくんの話をした。
おかーさんは最期って感じでわたしの話をじっと聞いてた。
わたしは、涙を拭いた。いつのまに出てきてたんだろう、気付かなかったな。

「凄く、らぶらぶだったの!!」
「そう……」
「ね、まだ話したいんだよ。だから……」

死なないで、そう言ったらおかーさんほほえんで「××」わたしの名前を呼んだ。
決してわたしにはにあわない名前を、わたしにさもおにあいのように、おかーさんは言ったのだ。

「××」

もう一度、言ってくれた。おとーさんとかおにーちゃんに言われるのはちょっと苦しくていやだったけどおかーさんに言われると何だか心がほわぁーってなって嬉しかった。
ほわぁーが今、わたしの心に届いて涙がニ割り増しになって出てきた。おかーさんは女泣かせねーってふざけてみた。
きっと、おかーさんは死んじゃうんだって思ったら、ふしぎと涙は止まってしまった。
なんてはくじょーな娘だろうってかみさまも思っているに違いないな。
明日はきーっと雨模様っ!!とか変な文章を歌風にしてくちずさんでみた。
おかーさんは今も笑顔を崩さずわたしを見てくる。

あー、マロくんに会いたいなー。
そう思っていたら。

「おかーさん??」

おかーさん、目を閉じてた。さっきまでうっすらと開けていたのに、何か今は閉まってる。
それも、さっきより数段しあわせそーな笑顔で。
わたしも、ほほえんでお返しした。

「おかーさん、おつかれさま」

もう休んでいいんだよって言う。おかーさんの顔がもーっと笑顔になった気がしなくもなかった。
おつかれぎみのわたしは寝室へもうふを取りに行く。やたらもうふがつみかさなっていた。ちゃんと仕舞いましょう。寝室ってゆーのは凄くおっとなーな場所なんだってーっておかーさんに言ったら赤い顔になってたなーとおかーさんとわたしの過去をふりかえる。
因みにそのじょーほーげんはマロくんだぜ、とせいいっぱい明るく心の中で言ってみる。
うんと白いもうふを選んでおかーさんに掛けるとわたしはそのまま寝室に戻り、ばふっとふとんにのしかかる。

「ありゃりゃ、おにーちゃんわすれてたー」

そう言って押入れのふすまを開けてをのぞいてみる。けっしてあやしいものではありません。
わたしはおにーちゃんをはっけんした。手と足がしばられていて、おにーちゃんが起きていたら「逆に俺がお前を縛ってやるのに」とか言いそうなじょーきょーにあります。
しかも、おかーさんと同じよーに寝てるのか寝てないのか。
わたしは解説がへたなのだ。とにかくそんな感じなのだ、うん。

「おにーちゃん、いきてますかー」

今度は返事がなかった。でも、息の根はとめられてないっぽいのでそのまま放置!!
…そんなことはしません。だって置いといたら

「放置プレイとはいい度胸じゃねーの」

とか言われそう……、ん??今まじで言ったよね。
声に出てるんですけど。おにーちゃんいきてたよ、おにーちゃんなら死んでてもよかった気がするけど。
おにーちゃんはすじがねいりのへんたいさんなのよーっておかーさんが言ってた気がする。
気がするだけかもしれないけど。

「おにーちゃん、いきてたんだ」
「勝手に殺すな、ばか。それより解けよ。お前を縛ってやるから」

ほら、ほら言った!!
そんな風に頭の中で葛藤していたらおにーちゃんがいきなり寝たふりをした。
おにーちゃんは小さい声でひそひそと「逃げろ」って言った。でも、わたしの耳までは届かなかった。

「……おとーさん、おかえり」

おとーさんが後ろにいた。わたしはおにーちゃんを守ろうと努力してみることにした。

「おとーさん、これどーゆーこと??おにーちゃんも、おかーさんも、死んじゃってるよ」
「お前を殺す為だよ、××」
「どーして、なんで、しにたくない」

せいいっぱい演技なるものをしてみる。
うーん、見事なだまされっぷり。ひょっとしてわたしって嘘がじょーずなんじゃない??
わたしはおとーさんの後ろの人影にちゅーもくした。

「うぬぬ、……マロ、くん」
「知り合いなのか」
「かれしだよ」

そう、かれしなのだ。
マロくんは女の人の腕の中でぐっすりすやすや寝ている。
そのうちわたしの目の前がまっくらになって。

「お前もお母さんとお兄ちゃんと一緒に死ぬんだよ」

わたし、死ぬんだってさ。