ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 【第四話】黒蝶は儚げに詠う @5 ( No.32 )
- 日時: 2010/12/26 21:44
- 名前: 氷兎 (ID: 8hgpVngW)
何となく、それでもいいかなーって思えた。
死んだらまたおかーさんに会えるし。
おとーさんとはこんりんざい関わらなくなるし。いっせきにちょーだし。
おにーちゃんは……まあ気にしない。ざんねんだったなーくらいかな。
「そうだねー、死のうかな」
「ほら、こっち来なさい。記憶を無くすから」
「……へ??」
すごいまぬけな声が出た。え、だって、へ??
こんな時におにーちゃん早くたすけないと死んじゃうなーとか思ってしまった。
でも、ちゅーもくすべき点はそこじゃなくてさ、目の前の事にちゅーもーく。
「きおく、なくなるの」
「そうだ、記憶を殺すんだよ。これは、お父さんの大事な研究なんだよ」
うそつき。
おとーさん、わたしとおかーさんとおにーちゃんが邪魔なだけなんじゃないの。
知ってるんだよ、わたしは。
「ちがうでしょ、けんきゅーじゃないでしょ。知ってるんだよ、おとーさんがよなかにおかーさんの首しめようとしてたの」
おとーさんの顔がムムッとした顔になる。こーゆーのなんてゆーんだっけ、おにのよーなぎょーそーだっけ??
マロくんぜんぜん目をさまそうとしなかった。ずーっとしあわせそーにねてるんだよ。ずるい。
そしたらおとーさんが女の人からマロくんをとりあげてけんきゅーしつの外のがけまで持っていった。
襟を持たれてすごくくるしそーなのにまだわらってる。わたしがいるからなのかな。
でもねわたしはマロくんの所為ですっごいくるしー思いをしてるんだよ、分かってる??
「おとーさん、なにするの、マロくんはなしてよ」
「なら、お父さんに従いなさい」
「おとーさん、きらいだ」
あらためて、おかーさんのそんざいがわたしの中でひびいてきた。
おかーさんとか、おにーちゃんとか、マロくんとか、すべての人に頼りたいのに。
みんなわたしの前から消えていくの。
そういう「ころす」だったの。
「きえていく」の。
わたしのこころもきおくもぜんぶ、
「けしちゃうの」
「ああ、そうだ。お父さんの為に、死んでくれ。そしてまた、お父さんの役に立って貰いたいんだ」
おとーさん、そんなキタナイ手でわたしにさわらないで。
そんなキタナイ顔で、笑わないで。
そんな、そんな手で……
「今のお前は、使い物にならんか」「わたし達を汚さないでぇえええっ!!」
せいいっぱいの大きな声でさけんだ。
そしたら、
「なら、交渉決裂だな」
おとーさん、マロくんを海に落としちゃった。
わたしね、おとーさんがきらいだったわけじゃないんだよ。いや、きらいだったな。
わたしはおとーさんがおかーさんやおにーちゃんやわたしをしあわせにしてくれなかったから「きらい」なんだよ。
おとーさんは、「すき」だったんだよ、「すき」……だった……。
「マロ、くん。マロくんマロくんマロくん……フジ、くん」
フジくん。フジくんがマロくんのほんとーの名前なんだよ。
すごくすてきな名前だと思うって言ったら、「俺、君の事好き」って言ってくれたの。
わたしの事を、「すき」だって。
「すき」って、何だっけ。
「こいつの精神はもう壊れた。さっさと記憶を抜くぞ」
「フジくーん、おかーさーん、おにーちゃーん、たすけてよー」
なに言ってるか分からなかった。
わたし今なにを言ってる??ねえ、なにを言ってるの。
「もう、やだよぅ……」
「じゃあな、」
女の人は、がけの方に行って手をのばしてた。
そんなに近いいちに居るならたすけに行けばよかったよ。ね、フジくんあんどマロくん。
「マナ」
きおくがとぎれるまえにおとーさんの声でわたしの名前なんて聞きたくなかったなー。
ざんねんだなー。
おにーちゃんかおかーさんか……
「マナっ!!」……フジくん、に。
——きおくなんて
すててしまおう。