ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

【第五話】黒蝶は消失に溺れる  @3 ( No.51 )
日時: 2010/12/28 10:40
名前: 氷兎 (ID: 8hgpVngW)




おとーさんはわたしを見て構えていたリボルバーを下げた。
そして、にやりと口角を上げた。

「今一度記憶を無くそう」

わたしの肩に手が伸びる。だがわたしは避けなかった。
ただおとーさんの言葉に耳を傾けている。

「次のお前はわたしに逆らえないようにしてやろう」「させるか」

マロくんが答えた。
その表情は怒りでもなく、哀れみの表情だった。怒る気すら起こらないのだろう。
おにーちゃんも、同じだった。

「貴方みたいな人には、怒る事すら勿体無い……」
「はっ、ぬかせ」

おとーさんは一度下げたリボルバーを構え直す。
マロくんもおにーちゃんもぐっと構えるが、おとーさんは攻撃ではなく話を始めた。

「そういえば……マナ、お前のボスだとかいうあの男……いまやあの男も記憶は真新しいものになっている。まあ今のお前に伝えたとて意味は無いがな」

……ボスって、二度目に記憶を無くされた時にわたしを拾ってくれた人なのかな。
マロくんはおとーさんの話を聞いてから顔を少し背けている。
多分その人はわたしにとって凄く大切な人だったんじゃないかと予想する。

「今は裏企業間で戦争が起き始めている……。直、お前の裏企業の奴等も全員死ぬだろう」「てめえ……っ」「もう、何なの」

わたしが言った瞬間、マロくんとおにーちゃんとおねーさんとおとーさんがわたしを見る。
わたしの目からは幾筋もの涙がとめどなく溢れ出していた。

「もう全部分かんないよ。わたしはマナで……っ企業とか、入ってないし……。助けてよ、はやねさん」

分からなかった。何故その名前を口にしたのか。
自分でも言った後におかしいなって思った。最後の一文は、言うはずじゃなかった。
マロくんも、おにーちゃんもおねーちゃんも驚いている。

おとーさんはギリッと噛締め、悔しそうにリボルバーをわたしに向けた。
マロくんがわたしの前に移動する。

「また失敗作か。所詮お前は実験台だ」

おとーさんの人差し指が引き鉄を落とそうとした瞬間、おとーさんはすぐさま標準を変えた。

「しまったっ」
「もう遅い」

銃口はおねーさんに向けられ、今度こそおとーさんは引き鉄を落とした。



辺りに銃声が響いた。



胡蝶さんの心臓部に弾丸が貫通している。
胡蝶さんの目にもう光は宿っていなかった。

「胡蝶さん……っ」

その瞬間、わたしの世界が180度景色を変えた。