ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 道化の在る場所 ( No.1 )
日時: 2010/12/11 12:44
名前: わぐのん ◆m7oMPepJ9o (ID: zuIQnuvt)

 こわいこわいこわいこわいこわいこわい。おねがいだれかたすけてください。ぼくはまだ死にたくありません。まだ生きていたいです。もしわるいことをしちゃってらあやまります。ぜんぶあやまります。ごめんなさい。どげざします。おかねもぜんぶはらいます。だからたすけてください。どうかぼくを死なせないでくださいおねがいしますおねがいしますおねがいしますおねがいしますおねがいします。たすけて助けてこわいのいやなの死にたくない。
 いっそぜんぶなくなってしまってもいいですから。 ぼくからすべてをうばってもいいですから。どうか——。
 かみさま。

 僕が在る場所を下さい。


第零話「人在らずして物事は成り立たぬ。それは必然」


 私には兄がいた。彼は私以外には誰にでも柔らかく接し、たとえ自分が傷つこうとも私以外の相手の何もかもを受け入れることができる、小さな心を持った馬鹿野郎。
 そんな馬鹿は私が生まれて十五の年月が経った頃、まるで溝鼠の様に無様にぼろぼろになって、息絶えていた。
 私はそれを"悲しい"とは思わなかった。ざまあみろ。お前が屑な生き方をしているから屑な死に方をしたんだ。ああ面白い。傑作だ。
 でも。
 馬鹿が死ぬ前、私は彼に依存していたんだと思う。無意識に。何故それが今更わかっただなんて、わからない。
 私はいつも馬鹿が死ねばいいと思っていた。
 いつもいつもいつも私を奴隷のように扱い、人間ではないと決めつけ、私を殴って蹴って殺そうとまではしなかったが、私を嬲り続けた。
 まるで当時の私は馬鹿のおもちゃのようで。
 悔しかった。苦しかった。死にたかった。殺したかった。
 けれど馬鹿と私は"血"という、切っても切れるはずのない頑丈すぎてどこか脆い鎖で繋がれていた。
 それを思うと私は馬鹿を——彼を殺すことができなかった。
 私はある時、彼が夜眠っている時間を狙って、ナイフを持ち、馬乗りになって刺そうとしたけど——できなかった。
 手が震えて、力が入らなくて何もできなかった。涙も洪水の如く溢れてきて、止められなかった。
 ましてや、何て馬鹿なことをしたんだろうとまで思ってしまった始末だから、もう私は彼なしでは生きていられないと思う。
 愛しているから。人間としても家族としても愛してしまったから。
 「あああああああああああああ!!」
 私は叫んだ。
 愛と言うこの世界の中でおぞましく醜い感情を知ってしまった私は何て大馬鹿者なんだ死ねよ私なんか死んでしまえばいい嗚呼苦しい腹の底から兄が憎いと叫びたいが心がそれを抑止する私の心よ死んでしまえ私の帰る場所なんてないのだからもう消え去ってしまえ私はもう何もイラナイ何もかも必要ない消えろ私よ消えろ万物の記憶の中から消えてしまえばいい世界は私なんかがいてほしくないのだ私を知るものなどあの人だけで十分だから早くお願い私よ消えて。
 愛なんか知らなければよかったと思っても、もう遅い。

 私は空に向かって手を挙げ、神様に宣言した。
 
 「私は私を殺します」

 空はまるで無駄だと私を嘲笑うかのように冷たく無常な雨を降らせる。