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Ⅰ-Ⅲ「右目のない女神」

「砲撃止め!!」

その声は女性のものだった。澄んでいて、とても綺麗な声の女性。
鼻をつく匂いと、何も見えない煙で覆われた視界。
煙がすべて消えた頃、赤毛の女性が率いる軍隊が見えた。人数は100人程度の小軍隊。

そんな軍隊で敵うわけがない。ガブリエルにも、ベリアルにも。

煙から現れたのは、長身の黒い悪魔。所々に浮き出る赤い血管、黒い禍々しい翼。その身体には傷一つない。

「はっ───」
赤毛の女性が驚いたように呟き、目を見開く。

彼は恐ろしいだけでない。心のどこかに悲しみを持っている───。
何故か解った。心のない悪魔の心が───。

次の瞬間、長いようで短い一瞬の出来事が起きた。
ある男性兵士が、赤毛の女性を突き飛ばして爆弾を投げ込んだ。
皆はそれを見て教会から走り去り、残ったのは赤毛の女性だけ。

この教会に残れば、間違いなく赤毛の女性は死ぬ。でも、赤毛の女性は動かない。
その瞳はしっかり爆弾を捉えている。でも、彼女は瞳を閉じた。

宵闇の静寂を裂く耳を劈く爆音が轟き、教会は粉々に崩れ落ちた。
誉れ高き女神像の右目は崩れ、床に材料の石がパラパラと零れ落ちる。

彼女は生きていた。悪魔と謳われる男に救われて───。

私はそれが信じられなかった。心がない悪魔状態の彼が人を救うなんて。
彼女もまた、驚いているようだった。そんな中彼はフュージョンを解く。

そこには、悪魔でもない、ただ悲しげな表情を見せる人間が立っていた。