ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 忘却の金曜日 参照500突破しました!! ( No.171 )
- 日時: 2011/01/08 09:39
- 名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)
第五話「後悔、安心」
「ッ……とりあえず、クソガキ共は出て行け!」
傍から見れば不良のような暴言だったけれど、それは状況からくる暴言だと知り私達は病室を出た。
すると出た瞬間、ヨレヨレの白衣を着た女医……清瀬小春先生が居た。何回か面識があり一応知り合いでもある。
私達はそれぞれ病室前の椅子に座っていた。けれど誰も喋らず、沈黙だけが続く。
「容態が急変したんですって?」
「はい…………」
いつもなら冗談交じりに言葉を交わせるけれど、今日ばかりは違う。
清瀬先生は流石にその事は知っているらしく冗談は言わずただ私の肩を摩っていた。
……まだ、泣けないけれど。
「……自分達が来たせいで容態が急変したとか思ってるでしょ」
「そうですね……」
私は否定すること無く、頷く。何で清瀬先生が知ってるとかは最早どうでも良かった(失礼だけど)。
するよ清瀬先生はふぅ、と溜息を着いてから私の隣に座る。そして苦笑しながら独り言のように話し始めた。
「アンタ達、一時期面会謝絶で見舞いに行けない時期あったでしょ?」
「はい……」
そう、夕の入院当初はそんな時期もあった。
私と葉月で色々心配して悩みに悩んだ事を良く覚えている。
そして私が頷いたのを確認すると、清瀬先生は話を続けた。
「あの時ね、錯乱している夕に会わせたらアンタ達が危ないって思って涼也がそうしてたんだけど……」
「……どうなったんですか?」
……浪森先生がそんな事、してたんだ……。
私はぼんやりとそんな事を思い、清瀬先生を見ていた。何かを懐かしむような少しほのぼのとした表情をしている。
今の私達にはとてもじゃないが出来ない表情で、少し羨ましかった。
「ますます錯乱が酷くなったの。金曜日なんて隔離しないと病院も夕も危ないくらいにね」
「え……?」
「それでアンタ達を試しに呼んだら……今の無邪気な夕になったのよ」
信じられなかった。
私がお見舞いに来た時の夕はとにかく無邪気で、包帯をかなり巻いていたけれどそれが何故か覚えていない夕だった。
夕にそんな事があったなんて……と思わず呟いていたのか、清瀬先生はニヤッと笑う。
「分かる? アンタ達が信じてれば、夕は良くなる……夕にとってアンタ達は必要で、無くちゃならない存在なの」
「…………」
「じゃね」
清瀬先生は手を振ってから椅子から立ち上がり、何処かへ去って行った。
……慰めてくれたんだ。
ふと清瀬先生の気遣いに気付き、私は一人両手を合わせながら深く願う。
こんな事をする日なんて、来ないと思っていたのに。
(また夕に会えますように…………)