ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 忘却の金曜日  ( No.89 )
日時: 2010/12/29 09:38
名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)

  第三話「失う、喪う」


「……おい、クソガキ」
「だからークソガキじゃなくて私には真白って名前があるんですよ〜」
「どうでも良い。それより、マジか?」
「えぇ。全部リアルな話ですけど?」


涼也が病院の中へと入ると、彩佳と共に帰路へ着こうとする真白の姿が見えた。
普段はお互いスルーするのだが、今日は何故か真白が彩佳を先に帰らせ、わざわざ涼也の元へと近づいて来る。
涼也は何かと思い不審げな表情をしていると、真白は先ほど夕に話していた夕が学校へ居た時の話をしてきたのだ。そして現在に至った。


「あ、後……夕が記憶を失ってもそのままで……「今は言うな」


真白が周りをキョロキョロと見回してから涼也の方をじっと見て、やや重々しい声で告げる。が、涼也はそれを静止した。
何の話かは良く分からないが、二人だけでの共通項らしい。


「あまり持たないかもしれない。俺にはそれしか分からねぇよ」
「…………どうするんですか?」
「何をだよ」


真白はふぅ、と呆れた風に溜息を着いてから肩をすくめて話し始める。


「仲の良かった私さえ知らない過去ですよ? とんでもない、陰惨なものを……今の夕にどう伝えるんですか?」
「オブラートに包んででも話すさ。そうでもなきゃまた全部パァになる」
「面倒な医者ですね……残された寿命縮めたら私容赦しませんからね」


最近の高校生女子はパワーが有り余ってるんですよ、と真白は付け加えてから真白はスタスタと涼也の元から立ち去った。
また一人残された涼也は頭をガシガシと掻いて気の抜けたような溜息を吐く。


「ばーか……俺だって伝えたかねぇっつの」
「何独り言言ってんの?」


ボソリと毒を吐いた涼也の背後から、メッゾ・ソプラノの声が響く。何かと思い後ろを振り向けば其処には彼の同期である清瀬小春が居た。
ボサボサの灰色の髪に、ヨレヨレの白衣……研究熱心で有力な医者である小春だが、ルックスにはあまり拘らない女性でもある。
涼也はそんな彼女に苦笑しつつ、とりあえず視線だけ合わせていた。


「お前こそ何用だよ」
「失礼ね。魅代夕の過去が少し分かったのよ」
「! ……マジか!!」


涼也は先ほど見せていた苦笑から、目を大きく見開いた驚きへと表情を変貌させる。
そんな彼に今度は小春が苦笑しながら過去の事が書いてある資料を見せたのだった……。