ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 銀髪の少女は死神 ( No.15 )
日時: 2010/12/20 17:39
名前: チョコアイス (ID: LN5K1jog)

4話


「この模様分かる?」

少女は男に自分の右手を見せる。
線があり、記号があり、文字もある。
だが どれ一つとして理解できる形は無い。

「正直言って私には分からないわ。この模様が何なのか。そして 何故 私の右手に刻まれているのか。」

少女は右手を男の胸に重ねる。
早い鼓動が伝わってくる。

「これから起こる事が怖い?  だけど 大丈夫よ。私はあなたを殺したりしないから。」

少女は目を閉じながら言う。

「痛みもないし すぐ終わるわ。 本当にすぐに……」

口を閉じて集中力を高める。
自分の持つ力の全てを右手に送っているのだ。





突如 右手が薄い光を帯びる。
青白い綺麗な光。

同時に右手は男の胸にゆっくりと入り込む。
貫いているわけではなく、通り抜ける様な感じ。

少女の額には汗が溜まる。
それほど力を使っているという事。
だが、それでも右手を進める。

そして 右手全体が入った所で動きを止めて、目を閉じたまま男に話しかける。

「何が起こってるか分からないと思うけど、私にも詳しくは分からないの。  ただ言えるのは 私はこれからあなたの

       『魂』を貰う 

              って事だけよ。」

再び口を閉じて、改めて右手に集中する。

探しているのだこの男の『魂』を。
貰おうとしているのだこの男の『魂』を。


その状態で数秒後、右手に掴んだ感触が伝わる。


すぐに少女は目を開き、手を引き抜く。

それと同時に男は力無く倒れた。
まるで 糸が切れたマリオネット の様。

瞳から生気は消えた。
まるで 人形の目 の様。

だが、ちゃんと呼吸はしていて生きている。
まるで 植物人間 の様。

男は 抜け殻 にされたのだ。

しかし 少女はそんな男にかまわず、右手に掴んだ『魂』を眺める。

大きさはテニスボールぐらいで、泥のような濁った色をしている。
これがコイツの『魂』。

少女はしばらく眺めてから、右手に力を入れた。

すぐに『魂』には小さな亀裂が入り、それは徐々に全体に広がる。
そして 『魂』は音も無く割れて 溶ける様に消失した。

これで、再び男に『魂』が宿る事は無い。
再び男が立ち上がる事は無い。


少女は制服のポケットから白いハンカチを取り出すとそれで右手を拭く。
実際に汚れたわけではないが、そのままだと落ち着かないのだ。

そして 拭いたハンカチを男の顔に適当にかぶせた。
弔いたいという気持ちは微塵も無いが、自分の罪悪感の気持ちを少しでも軽くする為。
だから 別に手を合わせたりはしない。

少女は 包帯を右手に巻き直し、左目にガーゼの眼帯を着ける。
そして 男に背を向けてまたビルとビルの間を歩き始めた。

銀髪を風になびかせながら。

春が過ぎ少し早くやって来た夏のある日の夜だった。