ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: この糸が千切れるまで  ( No.25 )
日時: 2010/12/22 14:53
名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)


「お兄ちゃーん」
「何?」
「……むぅ、名前で呼んでくれないの?」
「…………」


いや、名前知らないし。と言うかそもそも兄じゃないとかは言っちゃいけないか。
と言うかこの写真の人の名前すら知らないけど。


「昔みたいに……さきって呼んでよ」
「……咲、どしたの?」

これで満足か。と言うかそう言う貴方は写真の人の名前未だに教えてくれないけどね。
まぁ、そんな事など知らずに未来はまたにっこりと、いかにも嬉しそうに笑っていた。


「ううん、何でもないよ♪ ……ゆうお兄ちゃん」


悠、と写真の人の名前を言いながら未来は椅子から立ち上がってくるくると回りだす。

……悠って言うのか、俺に似た人って。

そんな事をボーッと考えながら黒い物体を片付け終え、とりあえずポピュラーな炒飯を作ってみる。
冷蔵庫を適当にガサガサと漁ってみた瞬間……驚く。

何てこったい。包丁を入れる場所、間違えてるよ。

冷蔵庫には研ぎ澄まされている包丁が軽く十本入れてあり、黒い物体が生息している。

良く生活できてたなぁ咲。お兄ちゃん(仮)は驚きだよ。

そんな事を思いつつ、くるくると回りすぎたのか疲れてソファーに横たわっている咲を感心して見る。
そう言えばかなり細身で痩せてるし……ロクな物を食べていないのだろう。

一応一般食材は入っていたのでそこから野菜を取る。


「咲、何食べて生きてたの?」
「……え? それ」
「この黒い物体?」
「うん。意外と美味しいんだよ」


何てこったい。味覚までおかしくなっちゃってるのか。
俺は誰にも聞こえない(と思う)風に溜息を着いてフライパンに油を敷く。
人間の未来より妖怪の俺の方が一般常識があるだなんて世の中分からないもんだ。


「ご飯まだー?」
「まだ。もう少し」
「ふーん。何悠お兄ちゃん家庭的になったね」
「あはは。そう?」


なんて適当に話しながら米と野菜と肉を炒めて簡単な炒飯を作った。
少なくとも黒い物体よりはマシな味だろう。そんな事を思いつつ、机にそれを並べる。
咲はそれを感心した風にまじまじと見つめていた。


「悠お兄ちゃん、凄い家庭的だね」


当たり前だ。黒い物体を作る人なんて早々にいやしない。
少なくとも僕の目の前にいる人以外は。


「いただきまーす」


何か幼稚な気のする食事前の号令をして、俺らはさっさと夕食を食い始めた。