ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: この糸が千切れるまで ( No.33 )
- 日時: 2010/12/27 08:47
- 名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)
「壊れたって、どう言う意味だよ……」
壊れたと言う言葉の意味がギャグでは無い事は深刻そうな夏苗の表情を見ればすぐに分かる。ただし、どう言う風に壊れたのかが分からない。
夏苗はそんな俺を見ながらコーヒーを少し飲んでから話を続ける。
「部屋中に悠の写真を張りまくるし、今まで多少話していた友人にも心を全く開かなくなった。さっきまで悠と咲ちゃん、会話してたでしょ?」
「あぁ、一応は……」
「あぁやって会話するのでさえしなくなった。咲ちゃんに心を開いてもらってた私にでさえもね」
そう言って夏苗はまた深刻そうな表情を見せて俺の反応を困らせた(勿論夏苗が意図的にやっている訳では無いけれど)。
状況を整理すれば悠って奴が居なくなってから咲は色々変わってしまった、とでも言うところか。
悠が何故居なくなったのか気になるが、こればかりは夏苗にも聞けない。俺がそんな事をぼんやりと考えていると、夏苗が不思議そうな表情でこちらを見ていた。表情が豊かというか、ころころ変わる奴だ。
「あ、そう言えばどうして咲ちゃんがキレた時に反論しなかったの?」
・・・・・
痛いところを突かれた。しかしこの理由ばかりは人間である夏苗には言えない。
俺が先ほどの夏苗のような深刻な表情をしていると、夏苗の表情ははまずい事を聞いたのか、と焦っているように変わる。
「……変な事聞いちゃった?」
「いや、ちょっと疲れが出たっぽくて……」
理由は嘘だけどとりあえずは誤魔化しておく。夏苗は何とかそれにだまされてくれて、心配そうな表情さえ見せた。
俺は罪悪感を持ちつつ心配そうな夏苗の言葉を受け取り、とりあえず今日は帰ってもらう事になった。
夏苗はコーヒーを一気に飲み干して、椅子から立ち上がって例の裸足でペタペタと歩いてから俺に手を振る。
「んじゃ、今度は咲ちゃんが居ない時にまた来るから」
「あぁ……じゃあな」
ようやく笑みの戻った夏苗にホッとしつつ俺も手を振り返す。そして家の鍵を閉めてから、咲の寝ているリビングへと戻った。
咲はまだ夢の世界へと居る様子で安眠と言うか熟睡している。前のあの気迫迫る様子とは正反対にも見える。
そんな咲を静かに眺めながら俺は炒飯とコーヒーカップをシンクへと運び、片づけを始める。
ジャー、とやや豪快に流れる水の音が何処か心を落ち着かせた。
「……変なとこに来ちまったな」
俺は自分の行動の過ちに後悔しつつ、皿洗いをまた始めた。