ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: この糸が千切れるまで 一話終了 ( No.54 )
- 日時: 2010/12/29 17:14
- 名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)
第二話「蜘蛛の寿命」
想いと糸が、絡まった。
抜け出せないのは果たしてどちらか。
————————————————————————————————
「え〜学校行くの嫌だぁ〜」
咲はまるで月曜日の小学生のような事を言いながら学校へ行くのを嫌がっていた。
本人から聞いたところ、俺がやって来るまでずっと登校拒否していたらしい。先生お疲れ様でした。
先ほど朝飯(昨日の炒飯の残り)を咲に食べさせて、制服に早速着替えてもらい、今玄関の前で二人でうだうだやっている。
……勿論だけれど着替えを除くとか変態的な事はしていない。
それにこっちは黒い物体の片付けやら色々しないと大変なんだから学校くらい行け、と僕は咲を無理やり見送る。
「はいはい、さっさと行く行く」
「……出て行かないよね?」
「行かない行かない」
「出て行ったら見つかるまでずーっと探すからね」
「はいはい。分かったから早く行け」
咲は昨日の死んだような目を見せてからこくん、と頷いて渋々と学校へ行った。風に長い黒髪が揺れている。
俺は咲を見送ってからやや出て来た疲労感を押さえ、朝飯の皿を洗いながら溜息をつく。
……何故悠はこの家から出て行ったのか……。
ふと、そんな事を考えていた。何故咲をおいてわざわざ一人で逃亡したのだろうか。
やっぱり昨日のような事が多少はあったのか……何なのか……良くは分からない。
けれど考えていても仕方が無さそうなので今はとりあえず考えない事にしておいた。
「いよーぅ、時雨」
皿を洗い始めると、シンクの目の前にある窓から見慣れた顔と能天気そうな声が視界に入って来る。
俺は驚きのあまり持っていた皿を落とす……事は無く、目の前にいるそいつに冷たい目線を送っていた。
ニコリと笑って出て来る八重歯に大きな瞳の女顔、そして……耳から生えている真っ黒な猫耳。
「何用だよ、雪芽」
猫耳男こと雪芽は二カッと笑ってから窓を乱暴に開け、両足を窓枠に置き、腕を大きく突き出して飛び、家の中へと入って来る。
そんな野蛮野郎の雪芽は……正真正銘の妖怪でもある。猫耳から分かるかもしれないが、化け猫だ。
「いやさ、お前人間界に行くの長いと思ったら……可愛い娘と同居ってか?」
「無理やり連れてこられた」
「本当かよ! そりゃ大変だな」
カカカッ、と雪芽は豪快に笑いまた八重歯を見せる。ふと足の方にめをやれば裸足だった。
後で掃除するか……、突然来やがって。
心の中で毒づきつつ俺は雪芽にスリッパを履かせ、さっさと皿洗いを終わらせてから話を始めた。