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Re: この糸が千切れるまで 一話終了 ( No.58 )
日時: 2010/12/30 21:05
名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)


「そんでさ……何用?」

昨日夏苗と話した時のように向かい合わせで椅子に座り、時雨は自分でも分かる程むすっとした表情で雪芽に疑問をぶつけた。
雪芽は相変わらず笑ったまま話し出す。


「お前の寿命が短くなってんの知って、ちょい様子見的な?」
「…………はっ」

(……短くなったどころか、死ぬかと思ったな)

此処まで話し終え、先ほどに比べかなり深刻そうな表情になる雪芽を時雨は(勿論、皮肉的な意味ではないだろうけど)鼻で笑った。
内心自分に対して皮肉を言いつつ右肘を机について頬杖をつくと溜息を着きながら話し出した。


「わーってるよ。人間界に来て突然俺に対しての衝撃が来れば俺の寿命が短くなる事くらい、さ」
「ふーん……分かってるなら良いけどさ」


雪芽はじっと、そして訝しげに時雨を見つめてから突然視線を時雨からずらし、外の風景を眺めるような形になった。

妖怪とは、基本は不老不死の生き物である。人間よりはるかに丈夫で歳もとらない(と言うよりは容姿が変わらないと言うべきだろう)。
しかし吸血鬼が十字架や聖水が弱点であると言われるように、妖怪にもそれぞれ固有の弱点が存在する。
身体の一部が弱点の場合や、特定の物質がアレルギーのように弱点である者も存在する。勿論それは妖怪である雪芽と時雨も同様だ。
そして、弱点である身体の一部が攻撃されたり、特定の物質が身体に入り込んだりすればその妖怪の寿命は縮まるか、あるいは死に至る。

尤もその弱点を攻撃されたりしなければ寿命が縮まることも、死に至る事も全くないのだが。

そして雪芽の言う寿命が縮まると言う事はその弱点が攻撃された事に類する。


「分かってるよ」


時雨は何処か自分に言い聞かせるかのようにそう呟く。雪芽は周りの風景を見ていたその視線をずらして時雨を見た。


「……お前、弱点を攻撃された奴の元から何で離れねぇんだよ? 分かってんのカ? お前の弱点は……「言うな」


やや力んでいる風に言う雪芽の台詞を遮り、紙も切れそうなほど鋭い視線を雪芽に送る。
その迫力に圧されたのか雪芽は部が悪そうにまた時雨から目をそらした。


「悪い………………」


気まずい雰囲気が二人を包む。あぁ何であんな事言ったんだろ、俺、と雪芽は自分の行動を悔やみつつ沈黙を続ける。
時雨はいつの間にか頬杖をつくのを止め、腕を組んで顔を俯かせ、これまた黙り続けていた。

そんな沈黙が暫く続き、ふと時雨が顔を上げた。
そして、


「………………あぁ」


と何とも短い返事を雪芽に返す。
しかし雪芽はその返事を聞くと表情をぱぁっと明るくさせ、八重歯を見せてお決まりの笑みを見せた。
時雨はそんな様子の雪芽を見ながら苦笑して、やや満足げに溜息をついた。


(まぁ、八つ当たりっぽくなっちゃったからな……)


そして時雨はふと自分の言った言動を思い出し羞恥からか顔をやや赤くして、照れ隠しのように頭をかき始める。
しかし幸いと言うべきか、雪芽はそんな時雨の様子には全く気付かずに二カッと微笑んでいた。


「んじゃ、俺もう帰んな! シーユー!!」
「は? ちょっと待、」


時雨が言葉を言うか言わないかのうちに雪芽は窓から家の中へと飛んだときのように椅子の端を両手で掴み、家の外へと跳躍した。
改めて人間離れした能力を持つ雪芽に時雨は苦笑しつつ一応手を振っておく。


……寿命、ねぇ……。


ふとその言葉を頭に過ぎらせ、時雨は深く溜息をついた。