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Re: この糸が千切れるまで 一話終了 ( No.59 )
日時: 2010/12/31 12:29
名前: 涼原夏目 ◆YtLsChMNT. (ID: m26sMeyj)

今まで死ぬ事なんて考えた事は全く無かった。
否、考えようと思った事すら無かった。

どうでも良かったし、何より死ぬ事が迫った事が無かったからだろう。
だから今、余計に考えているのかもしれないし。

……何てこったい。


「くあぁ〜……」


時雨から言わせれば騒音猫である雪芽が去った後、時雨は椅子から立ち上がり大きく伸びをしてから窓の方へと歩く。
今更だが、季節は秋。肌寒いが寒い! と叫ぶほどでもない微妙な寒さに時雨は複雑な感覚を覚えていた。
と、それはさておいて時雨は窓前へと着く。まず目に入ったのは枯葉が風に舞っている光景。
改めて寒さが押し寄せているだとしみじみ感じさせられた……わけではないが、時雨は外を食い入るように見つめた。


あいつは、悠は……どう言う奴だったのだろう。
容姿は俺に似ているらしいが性格や職業や何で出て行ったのか……そう言う色々な素性(?)が全く分からない。


ふと気付けば時雨の足は物置のある襖の前へと進んでいた。


(悠の写真を家中に貼る奴だ……日記とか、アルバムとか……何か奴を知れる物があるだろ……多分)


そう心の中で呟き、一人で頷いてから襖を静かに開けた。やや埃っぽかったが、妖怪である時雨にとってあまり気になる事では無い。
そして探してすぐに目前、つまり二段目の物置に悠の物を保存しているのであろうダンボール箱を見つけた。
時雨は早速それを下ろすとやや乱暴に開けて中の物をとりあえず床に出してみる。
と、同時に唖然とした。



入っていた物は体操着、ジャージ、制服、私服、パジャマ、運動用のユニフォーム、運動靴、時計、ベルト、ハンカチ、ティッシュ、生徒手帳、筆箱、シャーペン、消しゴム、消しかす、ノート、教科書類、日記、メモ帳、抜けた髪、菓子の食べかす、爪、抜けた歯……。
全てがジップロックに包まれ、大切に保管されており、出した事が無いのか全部綺麗に収まっていた。


(何だよ、これ……!)


まるで死んだ子供の物を大切に保管する親かのような、恐ろしい執着心の塊とも呼べるものが其処に存在している。
そしてまだ子が親なら成長を記録したいとかで分からない事はないが、(恐らく)妹が兄の物を保管するというのは何なのだろか、と時雨はやや恐怖する。


その保存されている物は間違いなく全て——— 悠 が使ったり、触れたりした物。
それを保存している人物はこれまた間違いなく——— 咲 なのだろう。


「何てこったい……」


時雨は目前の事実に対しそう呟いてから、何も言えなくなった。
驚きとは呼べない恐怖。背中がぞわりとするような悪寒。身体の芯からさーっと冷えていく嫌な感触。全てが一気に襲ってくる。
何故、咲と言う人物は此処まで悠に執着できるのか……考えただけでも時雨は身震いした。
表だけ平静を保っていられたのは保存されている物の持ち主が時雨自身でないからなのだろう。


(こりゃ、レベルが病気並だろ……)


冷や汗が頬をつたっているのを感じつつ、時雨はとりあえず震える手で日記帳(とそれを包んでいるジップロック)を掴む。
そしてやや乱暴にジップロックを開け、日記帳を取り出す。紙がヨレヨレになっていなく、咲は読んでいないようだ。



ぺらり、と時雨は日記帳の一ページ目を捲った。