ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 妖言神隠し ( No.13 )
日時: 2010/12/21 20:15
名前: 玖夙友 ◆LuGctVj/.U (ID: Omw3dN6g)

         関係ない話…③

   * * *

 さておき。
 おれは、図書室で悪魔とか封印されている本を探していた。

「ない……まずいっ……どこにもない…………」

 想定外のことが起きた。
 その科目の授業があるにも関わらず教科書を忘れてしまったように、いつ狙撃されるかもわからないのに防弾チョッキを着忘れてしまったように。
 想定外のことが、起きた。起きてしまった。
 どうしようもないといえばそうだが、そうなのだが——

「えーと君、どんな本探してるのかな? 有川浩さんの本だったら『三匹のおっさん』も『植物図鑑』も『阪急電車』も『ラブコメ今昔』も、その他『図書館戦争』シリーズとかも全部貸し出されてるけど……。あ、そういえば『シアター!』が最近返却されたんだけどそれ? 持って来ようか? それとももしかして別のやつ?」

 ——あんたどんだけ有川浩が好きなんだよ!?
 見かけは気さくそうな司書、中身は有川浩が好きな司書さんに話しかけられ、おれは口籠りながら答えた。

「あー、……まあそんなところです。……てか、『キケン』があったら読みたいんですけど」

 これは本音。
 しかし、おれが探してるものとは全然違う。
 ……てか、おれも随分と有川浩の書いた本好きだよなあ。
 司書さんが言ってた他にも『塩の街』に『空の中』『海の底』、『レインツリーの国』に『クジラの彼』でしょお、それに『フリーター、家を買う。』や『ストーリー・セラー』と……

 ——さて、本当の本当にどうしようもない状況である。
 おれは今日、とある部活の仮入部にする予定なのだが、ちょっとした気まぐれでというやつで、図書室に寄っていくことにした。
 しかし——おれのお目当てのものが見つかりそうな気配は、全然全く完璧に、ない。
 可能性ゼロ。
 脈、なし。
 いやまあ、あっても変なものなんだけど。「……そりゃやっぱないわなあ」
 そろそろ諦めた方がいいようだ。別におれは少年漫画の主人公じゃないんだし。
 おれは手に取った本を元あった場所に戻し、重いバッグ片手に図書室を出た。
 向かうは——旧応接室。おれが入部する部活の、部室だ。
 そこに、おれのこれからの青春があるはず……

「——待て」
「ぐどぅヴぉえッ」

 おれが旧応接室に行こうと決めた、ほぼ直後だった。
 背後から、何者かに服の襟首を掴まれた。襟首が首に食い込む。呼吸困難。誰だチキショー。

「お前、比澄(ひずみ)だな?」

 言いつつ、何者か——あ、女子だった。しかも可愛い——は襟首から手を放した。

「違うけど? つか、比澄ならさっき図書室から出てったぜ?」
「じゃあいいや。あんたに用があるの」
「実はおれの名前は比澄昏旅(ひずみくろろ)というんだ」
「比澄だね、用があるの」
「オイ、話が違うぞ!? ……キサマ、裏切ったな。クソ、あのとき始末しておけば……!!」
「変なドラマ始めないの。ちゃんと聞いてよ真面目な用なんだから」
「別にいいぜ? どうせ暇だし」
「ありがと。それでね——」
「だが断る!」
「……それ言いたかっただけでしょ?」

 他なんかあるの?
 おれはこれ見よがしにニヤついて、この何者かに言葉で些細な仕返しをする。
 言うまでもなく、おれはこの何者かが誰か知っていた。
 科倉右目(しなくらみぎめ)。通称「ミギメ」。
 クラスメイト。女子生徒。服装はチェック柄のシャツにロングデニム。
 ふっくらとした印象で、高校一年生ながらスレンダーという体躯ではもちろんなく——かといって肥満というほど肥えてるわけでもなく。
 丁度いい具合に、なんというか、柔和な印象を与えられる顔つきだった。しかし口が悪い。——と言うのがおれだけなのはどうにも解せない。
 なんというか、おれに言わせてみれば——見た目は可愛い。こう……グっとくる。

「いや、それは違うな」

 二重の意味で。

「はぁ?」
「おれぁね、だが断るが言いたかったわけじゃないんだよ。あ、でもミギメが可愛いとは少しだけ思ってんな」
「ふぅん……って待て、ちょっっっと待て、頼むから待ていろいろと待てッ!?」
「やだ。——で、おれはこれからとある部活の仮入部に行かなきゃいけないんだ。じゃな。……痛い痛いイタイイタイイタイっ、放せ!!」

 いつの間にかミギメに手を握られて——掴まれていた。まあ要するに握るも掴むも大差ないが。
 しっかし、女の子に手を握られるって本来なら喜びたい状況なんだけど、イタイ。
 ——ので、却下!

「わかったわかったわかった! 何!? 用って?」
「眉毛をピクリとも動かさないなんて……あんたってどんだけ無表情キャラでいたいのよ……」
「あ、それが訊きたかったんだ」

 なんだ。ちぇっ。
 ひょっとしたらと思ったおれが馬鹿だったぜ。

「——ならば応えてやろう。三択で選べよ、①紀田正臣 ②紀田正臣ぃ ③紀田正臣ぃ〜」
「④ちょっと付き合え」

 三択って言ったのになあ……。
 しかししかしのしかししかし。
 こうやって変に時間食ってる間にも、刻一刻と「図書室に寄って来ました」から「だるいんで適当に時間潰してから来ました」になっていく。
 はあ、モテない男も辛いぜ。

「またこんどにしてくれると助かるんだけど——て待て、それはあれ? 愛の告白デスカ?」
「訂正する。——手伝え」

 う〜ん、上目遣いで『お願いっ☆』だったらそうしてあげなくもないけど。
 けど。

「あー、でもおれこれから仮入部あるし……やっぱりこんどじゃ——」
「ダメ。いま!」
「強気な女は嫌いじゃないぜ」

 言うと、ジト目で睨まれた。

「嘘です! ミギメさんだから好きなんですっ!」
「……その件についてはまたあとで。——つか下の名前で呼ぶな!」

 もぉ〜、ミギメさんの焦らし上手ぅ〜。



「このとき、おれは知らなかった。ミギメの用とは、なんと同じクラスのミツルをオトス作戦だったということに。ハッピーエンドがないおれの未来はどうな——」

 がごッ——と。
 ミギメに後頭部を殴られた。