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Re: 妖言神隠し ( No.5 )
日時: 2010/12/19 14:55
名前: 玖夙友 ◆LuGctVj/.U (ID: Omw3dN6g)


         関係ない話…①

   * * *

「新入部員だぁ?」

 ものすごく不服そうに、入枝美萩(いりえみはぎ)なる少年は憤慨した。
 見かけは中学生そこそこといったところだが——しかし、その幼げな顔に不似合いな三白眼が妙にアンバランスな高校二年生である。
 美萩なんて、字面的に女みたいな名前をつけられたことはさておき。
 美萩がものすごく不服そうに、とても嫌そうに言葉を口にした。

「えー、めんどくさいよぉー。ユーくん、適当にあしらっといてくれない?」
「いや、でも来ちまうし」
「えー」

 美萩はさらに嫌そうに言うが、ユーくんと呼ばれた男子部員は腹を括れと言わんばかりに仏頂面なだけだった。釣り目なのでどことなく怖い。
 しかし、慣れているのか美萩は動じずに机の上に顎を乗せた。

「あー、本当めんどくさいな。……でぇ、その新入部員様は何人なわけ? いつ来るの? てか仮入まだでしょお? あー、ポケモン図鑑をチートなしで全部埋めるくらいめんどくさいな……」

 回りくどいが、要するに億劫だと口にする。

「情けねェなァ、オレなんかちゃんと全部揃えたぜ?」
「知らないよ、そんなこと……」

 机に顔を伏せて、美萩はその新入部員が来るまで寝ることにした。


 私立猫女学園(しりつねこめのがくえん)。
 何かと学費の安い私立としてその名を轟かせており、かついくつかの賞やコンクールなどを冠しているという、聞こえだけはいい私立学校である。
 元は女子高らしく、共学にしたいまでもなお女子生徒の割合が多い。
 偏差値は下の上といったところか。学力が僅かでもある程度は入学できるあたりに属する。
 私服制なので、校内は統一感のないものとなるのが殆どだが、一部の生徒はなんちゃって制服——いわゆる制服風にデザインされた服——着ている者もおり、しかしそうでない者は少しでも目立とうと、または目立たないようにと服装に気をつけているのが大半だ。
 そして、そんな微妙な高校生活二年目に突入したのが、美萩率いる部員の面々である。


「……つか、新入部員遅くなくなくなくなくない?」

 数分寝て、美萩の開口一番の台詞はそれだった。

「あァ? まァ、そりゃそうだろうな。今年の一年に上崎(かみさき)いるじゃん? その上崎担任のクラスで三人、違うクラスで一人なんだ。さっきの質問も答えると、計四人だな」
「……カミナシかあ」

 呟いて、美萩は上崎教師にカミナシなんてあだ名をつけたのは自分だと思い出す。
 その教師の名は上崎善造(かみなしぜんぞう)という。古典を担当している。
 ハゲているから髪がない。故にカミナシ。そのまんまである。
 全国にどれだけカミナシというあだ名をつけられた教師がいるのかは計り知れないが——この私立猫女学園でカミナシといえば、上崎善造に該当する。
 基本的、気さくないい教師として生徒たちからは慕われているが、ホームルーム時に長々と注意などを言うことが玉に瑕で、そういうところさえなければと生徒の殆どが思っている。

「カミナシの喋りって長いからなあ……。えと、じゃあ違うクラスの子は? そろそろ来てもおかしくないと思うんだけど——てか名前は? その四人」
「……入枝、お前部長だろ? そんくらい知ってろよ」
「はんっ、何をユーくん風情が偉そうに。部長ってーのは何もしないのに偉そうだから、部長なの。ユーくんこんど桜新町行ってきなよ、妖怪いっぱいいるから」
「わけわかんない話にシフトすんな! てゆうかアレだ。オレも正直あんま知らねェ。知ってんのは——その違うクラスのやつは図書室に寄って来る、ってェことくれェだな」
「ふぅん……」

 ——どうせ面白半分か何かだろうな。あー、めんどくさい。
 美萩は欠伸をしながら、もう一眠りと机に顔を伏せた。
 ——それにしても、注意とか長ったらしい先生ってどうも盗作臭いな……。
 思いつつ、寝慣れた机で美萩は眠りに落ちていったのである。



「けっ、よく眠るぜ」

 ユーくん——篠塚由丹生(しのづかゆにう)は言いながら、他の部員に話しかけた。

「アヤさんよォ、こいつどう思う?」
「馬鹿だな」

 全くこいつには呆れると、アヤさんと言われた“男子”部員は答えた。
 重苦しい雰囲気に包まれた部員——権ノ門彩那(ごんのどあやな)。なぜか学ランを着ていて「番長」とでも言わんばかりのオーラを纏っている。
 美萩や由丹生より一つ年上で、その歳相応以上の威圧を感じるのは気のせいか、近くを飛んでいたハエが急に息絶えたという「なんじゃそりゃ」な、そんな類の噂が後を絶えない不幸な男子生徒だ。
 なんでも、義務教育時代になんらかのトラブルがあり、それでこうして一年送れて学業に取り組んでいるのだとか。言うまでもなく「先輩」というのは禁句に登録されている。
 某アニメ風に言うなら「ガキ大将」のポジションらしいが、由丹生からしてみればそのポジションは美萩に他ならない。
 ——あのデカイ態度は、ジャイアンズのキャプテンに向いてるぜ。
 だが、多数決でそれはないと決まった。
 もっというと、由丹生のポジションは「骨川」とのこと。
 じゃあ入枝のポジションてどこだよ、と由丹生が訊くと「猫型ロボット」と部員が満場一致で答えた。もっとも、こうも寝るなら「眼鏡の除き魔」でもいいのかもしれないと由丹生は思う今日この頃だが。


「……つか、新入部員遅くなくなくなくなくない?」

 ——また起きたか。
 由丹生を含む部員の面々は、呆れ半分にそう思った。